第5話 「夏希の1日」

私は、

人と話す事が小さい時から

苦手だった



近所の駄菓子屋さんに

友達たちと行っても

欲しい物を言えずに

周りの子達が買っていった物を

買うことがよくあった


スポーツも出来なくて

公園にいる

バトミントンやボール遊びをしてる

みんなが羨ましくて。


私はただベンチで見てるだけ。


せめて、勉強くらいはって

小学生になった時から

自分なりに頑張ってきた


だけど、


男の子とも気軽に話せて

スポーツもこなせる子達より


いつも、


少しだけ、


低かった



取り柄って誰にでもあるんだと

勝手に思ってたけど


小学生で知った


取り柄って無い人には無いんだって


暗いとか


つまらないとか


男子に言われ始めて


勇気を出して声を掛けた女子にも

無視をされた


それが


イジメだったと気づいたのは

もう少し、

大きくなってからだったけど。


でも、好きな事はあった


本を読む事


きっかけは絵本だったけど

大きくなるにつれて

文字が読める事が嬉しくて


沢山の本を読むようになった


特にファンタジーが大好きで

夢中で読んだ


自分を作品の主人公に投影して


世界を救ったり


沢山の仲間を連れて悪者と戦ったり


冴えない女の子から女王様になったり


本の中の私は何でも出来たし


1人じゃなかった。


特に、仲間達と戦う物語は

何度も読んだ


多分、


友達が欲しかったからかな


だから


小学2年生の頃

引っ越しで街を離れる時


荷物になるからと

沢山の本を置いて来たけど


1冊だけこっそりと

自分の体には、まだ少し

大きなリュックに入れた


街を離れる事に未練はなかった


残ってたいと思うほど

良い事なんてなかったから


だけど、

次の街に不安もあった


また、1人になるのかな?

受け入れてもらえるかな?

って。


それでも

小さな希望を私は唱えた


どうか、


おもちゃや自転車なんて要りません


勉強もスポーツも

歌だって下手なままでいい


ただ、


友達が出来ますように。


車の窓を流れる

新しい街を眺めながら


私はそう願って


また本を開いた





今でも、


勉強は頑張ってるけど

人に誇れるほど成績は良くない


スポーツは

体育の授業がいつも憂鬱になる


合唱コンクールで

クラスのみんなに

迷惑を掛けないように

いつも、口パクで誤魔化してる



暗いとか


影が薄いとか


言われる事はまだあるけど


気にしてない。


「さてと、

そろそろ図書館の閉館時間だ

帰らなきゃ

あっ、メールだ!

うん?2通来てる」


夏希!

桃に海水浴の事、伝えたら

OKだって言ってたよ⭐️


今度、3人で水着買いに行こうね


夏希も今年は日焼けしちゃうね😊


じゃあ、また連絡するね🌃


夏希〜


うちの後輩が秋の文化祭で

ミュージカル的なのをやりたい

らしいんだけど

原作選びに困っててさ〜

何か良い本ないかな?(-。-;


というより、私の代わりに

相談にのってあげてほしいのだ😁✨


とりあえず、連絡待ってまーす



2人とも。。



9年前、この街で

私に2人の大親友が出来たから。



私は2人にメールを返し

図書館を出た


アスファルトの帰り道は

綺麗な夕陽に照らされていて

久しぶりに思い出してた

昔の記憶や想いが

更に頭の中で溢れそうになったし


何より、

自分の世界に入ったまま歩きたくなる

そんな雰囲気だった。


その時だ

私の後ろから猛スピードで

男子高校生が乗る自転車が通り過ぎた


自転車が過ぎた後に残った風が

自分の世界に浸っていた私を

引き戻した


気づくと、

道に青い携帯が落ちていた


あっ!落とし物


携帯の持ち主であろう

高校生は小さくなっていた


どうしよう。。


私は携帯を拾って考えた


普段の私ならきっと

交番に届けて帰っただろう


何故かその時の私は

そのまま、走り出した


どれくらいの距離を走ったか

わからないけど


小さかった高校生が

少しだけ大きく見えてきた


高校生は自転車を漕ぐのをやめ

その場でリュックやポケットを

探ってるように見えた


今だ!


もう少し


私は必死に走った


息が上がり、声が出せなかった


すると、

私の手に握りしめたままの

携帯が光った


何気なく携帯の画面が目に入った


えっ?!


そのまま走り

何とか、たどり着いた


息を切らしながら

私は声を掛けた


コレ、、、

落と、、し物です、、


立ち止まったからか

一気に身体中から

汗が噴き出した


「あ、あ、ありがとう」


あっ!


「じゃ、じゃあ」


そう言って、

高校生はまた走り去った


しばらく、その場で

呼吸が落ちつくのを待って

また歩きだした



さっきの人って



同じクラスの



西川君だったよね





そんな事をボーッと考えながら

歩いていたら


近所のコンビニの光が近づいて見えた


気づけば、綺麗だった夕陽は

すっかり、ビルの陰に隠れていた


頬や首、腕に残る

汗のベタつき


他の人達は嫌がるのだろうけど


私は、

そこまで嫌じゃなかった。



いつぶりかな?


こんなに汗をかいたのは。。


私はコンビニの中へ入り

適度な冷房に癒やされながら


飲み物が大量に並ぶ

冷蔵庫の前に立っていた


普段、

良く飲む緑茶じゃなく

スポーツドリンクを選んだ



ワイシャツが汗で透けた

サラリーマンや


タオルを首に掛けて

リュックを左右に揺らしながら

自転車を漕いで帰る

部活帰りの学生を見ながら


普段なら外でジュースなんて

1人で飲まないけど


何も考えずに、

お店の壁にもたれながら

夢中で飲んだ


夏希?


うん?


つい、

口元にペットボトルをつけたまま

私は声のした方へ

振り向いた


やっぱり、夏希だ!


桃ちゃん!


慌てて、

ペットボトルのキャップを閉めた


あれ?

いつもの緑茶じゃないの?


うん!今日はコレにしたの。


すぐ、買い物してくるから

ちょっと待ってて


そう言って

桃ちゃんは店内へ入って行った


すると、

入り口の軽快なメロディーが鳴り

私は桃ちゃんだと思い

顔を向けると


男子高校生が4人出てきて

私の近くにあるゴミ箱に

おにぎりのフィルムを捨てながら

その場で食べ始めた


私は自分の靴先を

じっと見つめて

桃ちゃんが出てくるのを

早く早くと思いながら待った


ねぇ!ねぇ!


えっ?


高校生でしょ?どこ高?


1人なの?


結構、可愛いじゃん

彼氏とか待ってんの?


見ず知らずの高校生達に

声を掛けられ

すぐにその場から離れたかった


あんたら!

4人でしか、1人の女の子に

声掛けられないわけ?


彼氏がいようが、いまいが

あんたらとは釣り合わないから

さっさと帰りな!


そう言って、桃ちゃんは

私の手を引いて歩き出した。


本当、ああいう男子って

見てるだけでイライラすんだよね


ありがと。


うん?いいの、いいの!


そして、私達は

その日あった事を話しながら帰った


でね、図書館の帰りに携帯拾って

私、すっごく走ったの


えー!

夏希のそんなとこ体育の授業以外で

見たことなーい


自分でもビックリしたんだけど

何とか間に合ってね

ちゃんと、渡せたんだ


スゴイじゃん!

夏希、今からでも

サッカー部に入れるんじゃない?笑


いやいや、

それとこれとは別だよ〜

あっ!携帯の持ち主

同じクラスの西川君だったんだ


えっ?あの、西川君?


うん!

何か、凄く急いでたみたいだった


そんな話をしながら

桃ちゃんと別れて家に帰った



ベッドに座りながら

西川君の携帯画面を思い出してた




柚子ちゃんって




西川君と。。

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