《第二十四章 豊穣祭は賑やかに》③
街の中心、噴水から離れた場所にて急遽設置された会場では早くも人だかりが出来ていた。
会場にはふたつのシンクが相対するように設置され、その奥では白のテーブルクロスがかけられた長テーブルには勇者がガトー姉妹に挟まれるようにして座っていた。その横には料理界では名だたる料理人、評論家、料理研究家の3名の審査員が座していた。
「さぁ! 豊穣祭にて急遽開催されました料理対決をここに開幕いたします!」
司会者の男がよく通る声で開幕を宣言する。
「その前にまずはこの料理対決の主催者をご紹介しましょう! 私の記憶が確かならば、グラン城下町からお越しの見目麗しき令嬢姉妹は! ガトー姉妹ィイイーッ!」
観客から黄色い声があがり、ショコラが一国の妃のような振る舞いで手慣れたように手を振って挨拶する。妹のミカは典雅な仕草でドレスの裾を摘まんでお辞儀する。
「では! 今回の料理対決で雌雄を決する勇敢なる二名の戦士を紹介しましょう!」
司会者の合図と同時にシンクの手前の入場門からスモークが焚かれる。
「私の記憶が確かならば! 名門ガトー家の食卓を彩る料理を生み出すは! 孤高のシェフ、ル・シフォン氏ィイイーッ!」
ガトー姉妹陣営のシンクにてスモークから現れたのは純白のコックコートに身を包んだ男だ。
3名の審査員からどよめきが起こる。
「まさかここであの天才シェフにお目にかかれるとは……!」
「彼の出店したレストランはいずれも星三つの評価がつきますからな」
「これは面白くなりそうですぞ」
「では、天才シェフに挑む勇敢な
合図とともに反対側の入場門からスモークが焚かれ、そこから挑戦者が姿を現す。
「魔王討伐の英雄、勇者殿の奥方、シンシア選手です! 勇気ある挑戦者に盛大な拍手をお願いします!」
スモークからエプロン姿のシンシアが現れると、拍手が巻き起こり、彼女を知る者からは声援が送られる。
「シンシアちゃんがんばれー!」
シンシアが前に進み出、ル・シフォンと相対する形になる。
「ふ……田舎娘が料理で私に挑もうなど100年早い」
「お生憎様。料理は愛情が何よりも大切だってお母さんから教わらなかったの?」
対決が始まる前から火花を散らすふたりの間に司会者が割って入って止める。
「それではルールを説明いたします! おふたりには同じ課題で競って頂きます!」
そこへ銀製のクロッシュを持ったふたりの執事がそれぞれ両人の前に進み出ると同時に蓋が開けられる。
ル・シフォンはグラン地方の名産、仔牛の最高級霜降り牛肉だ。赤い肉に白い筋が眩しい。審査員と観客から思わず溜息が漏れる。
対してシンシアのほうはこれまた名産の黒毛豚ロース肉だ。だが、霜降り牛肉と比べるとやはり見劣りはする。
「課題は肉料理です! 制限時間の一時間内に調理していただき、最後に審査員に判定していただきます!」
司会者が長テーブルの真ん中に据えられた巨大な砂時計を指さす。
「開始とともにあの砂時計を逆さまにして、砂が無くなったらそこで終了です! むろん調理の途中であっても許されません!」
観客からおおっとどよめき。
「それではお二方、準備はよろしいですね?」
両名が頷いたのを見て、司会者は勝負の開始を告げる。
「
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