《間章 港町の旅人》前編

 

 「私」は旅人だ。私はいま港町ポルトンへと向かう船に乗っている。

 どこまでも碧く広がる海洋を一隻の客船が白い航跡を描いて進む。旅人のは船室から甲板に出ると遥か水平線の彼方から顔を覗かせる太陽の光に顔をしかめる。

 手でひさしを作り、船縁から海原を眺める。


 「お目覚めですか?」


 後ろから船長が声をかける。


 「当船はまもなくポルトンに着きます。ご存じですかな? かつてこの海域ではクラーケンが暴れ回っていて船が出せなかったところを勇者一行と海賊が倒してくれたのですよ」

 「ええ、その武勇伝は私も聞き及んでおります」


 出港した港町でもその武勇伝は歌に唄われているほどだ。


 「ご存じでしたか。ではその海賊がポルトンで酒場を開いたことは?」


 私が初耳だという顔をしたので、船長はその酒場の場所を教えてくれた。


 「海賊船をそのまま酒場に改装しているので、すぐわかりますよ」と請け合う。


 程なくして船は波止場に着き、渡し板がかけられると乗客がぞろぞろと降りていく。

 二日ぶりに大地に足を踏みしめた私はその足で宿屋へと向かった。

 宿屋に入って帳場で部屋が空いているか確認する。


 「お一人様ですか? でしたら空いております。どの部屋にいたしますか?」


 支配人が料金表を見せる。料金によって部屋の質が違うのだとか。

 ふと、私はその料金表の一番上の最高級ロイヤルと銘打たれた部屋に興味を引かれた。


 「この最高級というのは?」

 「魔王討伐の英雄一行がお泊まりになった部屋ですよ」


 英雄一行が宿泊した部屋に私は大変興味を引かれたが、料金は最高級だけあってべらぼうに高い。路銀は無限にあるわけでもなし。仕方なく私は一番安い部屋に泊まることにした。

 部屋に案内され、荷物を置いて私はベッドで大の字になる。

 思えば遠くまで来たものだ。そういえばローテン王国の新作の劇はどうなっているのだろうか?

 訪れた時は脚本があまり進んでいないようだったが……。

 途端、腹の虫が鳴ったので私は腹ごしらえをしようと部屋を出る。

 目指すはもちろん、海賊が開いたという酒場だ。船長によれば昼も営業しており、その名物料理がおすすめだと聞く。

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