《第二十三章 勇者一行、南の島へ行く》③

 

 「よし、出来たぞ」


 入り江の浜辺でアントンが額の汗を拭う。目の前には砂で出来た城のミニチュアが建っていた。その精巧な造りはドワーフならではだろう。その出来栄えにレヴィが目を輝かせる。


 「素敵……さすがはアントンですね」じっくりと城の細部に目を凝らす。尖塔や城壁まで忠実に再現されている。


 「あら?」バルコニーを見るなり、レヴィが首をかしげる。


 「ここに誰かいますわ。お姫様かしら?」バルコニーに立つ枝を削って作られた人形を指さす。


 「それはレヴィ、おめぇだよ」

 「え……?」


 驚くレヴィをよそにアントンがバルコニーに立つ人形の隣にもう一体人形を置く。ずんぐりとした体型だ。


 「そしてこれが俺ぁだ。さしずめ王子プリンス騎士ナイトといったところだな」

 「まぁ!」

 「この城は砂で出来ているからな、いつかは崩れて無くなっちまうだろ。だが、俺ぁたちの愛はいつまでも永遠だ」

 「アントン……」


 エルフの白い頬にぽっと朱が差す。そしてふたりはさざ波の音のなか、砂の城の前で抱き合った。


 「そういえば浜辺のほうがなにか騒がしいですわね」

 「いつものことじゃろ。今はおめぇと俺ぁのふたりきりで過ごしてぇ」

 「ああ、アントン……」


 そしてふたたび固く抱きしめる。




 入り江でロマンスが繰り広げられている頃、浜辺では巨大蛸が相変わらずセシルとライラを触手でいやらしく責めている。


 「えーかげんにしときーや! タコ焼きにするで!」


 ライラが執拗に責める触手を払いのけながら怒鳴る。


 くっ……! こんなやつウチの魔法で一発やのに、セシルちゃんがおっては巻き添えを喰らう……!


 浜辺ではタオが攻めあぐねており、勇者はと言えば妻のシンシアから裏拳を喰らっているところだ。

 アントンは入り江のほうにいるため、姿は見えない。


 「ああもう! 誰でもええから、はよ助けてぇや!」


 ライラが叫ぶなか、轟音。次いで、ひゅるるるとなにかが飛来すると巨大蛸の手前に落ちて波しぶきを盛大にあげた。


 「なんや!?」


 ライラが振り向く。



 「第一波、魔物の手前で落ちた模様!」


 歯の欠けた口から着弾報告をするのは望遠鏡で覗く見張り要員のスミス。


 「第二波、よーい!」と副船長のセバスチャンが号令をかける。


 「俯角ふかくいち上げ!」


 船長の指示が副船長を通して階下の砲術士に伝わる。

 双子の砲術士、サムとシムがハンドルを回して俯角を調節する。


 「発射準備よーし!」ふたりの口から同時に報告。


 「ーーーーッッ!」


 船長の号令下、ふたたび轟音がすると砲門から砲弾が発射され、巨大蛸の頭部に命中した。


 「GWOOOOOO!!」


 巨大蛸が堪らずセシルとライラを放して触手で頭を押さえる。

 「今や!」ライラが呪文を唱えると両手からほとばしり出た炎が巨大蛸を焼き尽くす。


 「GWEEEAAEEEEE!!」


 炎に包まれた巨大蛸が叫びをあげるとそのままぶすぶすと音を立てて海中へと沈んだ。


 「大丈夫か?」タオがライラとセシルに声をかける。

 「はい。大丈夫です」

 「ウチもへーきや。けど……」


 ライラがくるりと海のほうを向く。遠くに一隻の船、正確には髑髏の旗を掲げた海賊船――。


 「あの船、やっぱり……」

 「ああ、間違いねぇ」


 ライラの言葉にタオが頷く。轟音を聞きつけてきたのか、アントンとレヴィが駆けつけてきた。


 「なんだなんだ!? ってありゃ海賊船じゃねぇか!」

 「ああ、あいつの船だ」シンシアの裏拳で顔がへこんだ勇者が頷く。

 かつて魔王討伐の旅の途中、海上でクラーケンに襲われ、ともに戦った海賊たちの船だ。

 舳先に人魚メロウの半身をあしらった船の船縁にブーツを履いた足をかけるのは褐色の肌に黒髪に赤いバンダナ、右眼に眼帯をした女船長――、マーレはにかりと白い歯を見せて笑う。


 「ボートを出しな! あたいらの仲間たちを船に乗せてやるんだよ!」

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