《第二十三章 勇者一行、南の島へ行く》②
ポラポラ島のプライベートビーチから離れたところにその入り江はある。
浅瀬に穏やかな波がたゆたうなか、砂浜の上をレヴィが優雅に走る。エルフ特有の金髪が陽光を受けてきらきらと輝く。
「うふふ、捕まえてごらんなさい」とレヴィがパレオをはためかせる。
「捕まえてみせるぞ!」無頼漢のドワーフのアントンが追いかける。
対照的なふたりが戯れている時、
人間の細い足が見えた。女だろう。
眠りから覚めたそれは静かに浮上していく。
浜辺ではライラがばしゃばしゃと波しぶきをセシルに浴びせる。
「ちょっライラさん、冷たいですよ!」
そう言いながらもセシルは楽しそうだ。
「みんなもはよおいでやー!」
ライラが砂浜にいる勇者、タオ、シンシアに声をかける。
「待ってろ。準備運動が終わったらすぐ行くから」タオが脚を伸ばす。
「俺らも行こうか」勇者がそばに立つシンシアに言う。
「そうね。久しぶりの海だし」準備運動で腕を伸ばしていたシンシアが頷く。「せっかくだから楽しまなきゃね!」
「よし! 準備運動終わり! 俺も行くか」
タオがやおら腰を上げようとした時だ。
ぞくりと背中に殺気に似たようなのを感じる。振り向くと相変わらずライラとセシルが水遊びをしているが、タオは魔物の気配を確かに感じ取っていた。
海に入ろうとした勇者とシンシアを止める。
「どうしたんだ? タオ」
「ふたりとも早くあがれ!」タオが海にいるふたりに早く出るように言う。
「ええ~、もうちょっと遊びたいんやけど?」ライラが不満たらたらで言う。
「違う! 何かがいるんだ!」
「え?」
ライラとセシルがさらに問おうとした途端、ふたりの後ろで海面がぼこぼこと泡だったかと思うと、いきなりライラとセシルのふたりが海から引き上げられる。
「きゃああああ!」
「いったいなんなん!?」
セシルの悲鳴とライラの声がかぶさるなか、海から現れた魔物が雄叫びを上げる。
「BWOOOOOO!!」
――
タオと勇者が同時に魔物の名前を呼ぶ。巨大蛸は吸盤のついた触手をくねらせ、細長い瞳孔をぎょろりとライラに向ける。
にゅるりと触手がライラのほうに伸びると、胸の水着を剥ぎ取る。ぷるんと豊満な胸と桃色の先端が露わになる。
「いやああああ! このエロダコ! なにさらすんねん!」すぐさま胸を手で隠す。
次いでセシルのほうにも触手が伸びると脇から2本の触手がぬるりと入り込み、すかさず引っ張ると可愛らしいふくらみが露わになる。涙目のセシルが悲鳴をあげる。
「セシルちゃん大丈夫!? ちょっとあんたらボーッと見とらんでなんとかしーや!」
「わ、わかった。行くぞ!」タオが勇者を見る。だが、当の勇者はうずくまっていた。
「どうした!? 大丈夫か?」
「どうしたの!? あの魔物になにかされたの?」シンシアが駆け寄る。
「大丈夫だ……何でもねぇ」
だが、勇者はうずくまったままだ。
「ウソ! じゃあなんでうずくまってるのよ? 良いから見せて!」
「大丈夫だって!」
それでもシンシアは無理やり勇者を立たせようとする。
「だからなんでもないって……!」
そう言う勇者の海パンの、股間の部分がテントを張っていた。
「こんな時に、なにおっ立ててんのよ!?」
「しょうがねぇだろ! 男の生理現象なんだからよ!」
「バカ! サイテー!」
しかし、シンシアの背後から触手が伸びて彼女もまた巨大蛸の餌食となった。
「きゃああああ!」
「シンシア!」勇者が駆けよる。すでにテントは畳まれている。
「なにか納得いかないんだけど!」
不満を漏らすシンシアに触手が伸び、彼女もまた貧乳が露わになった。
「いやああああ!!」
悲劇のヒロインさながらにここぞとシンシアが叫ぶ。
だが、触手は実り乏しき胸にぺたぺた触れたあと、するすると引っ込む。
「へ?」
そして紙くずを捨てるかのように、ぺいっと放る。
「きゃああああ!!」
砂浜に落下する直前のところを勇者がかろうじて受け止める。
「大丈夫か?」
「あ、ありがと。なんか釈然としないけど、とりあえずお礼は言っとくわ」
「しかし、あいつなんでシンシアさんを……女ならなんでも良いってわけじゃないのか?」タオが首をかしげる。
勇者がセシル、ライラと順繰りに見やり、最後に抱きかかえているシンシアを見る。
「な、なによ……?」
「そうか! あいつ巨乳が好きなんだ!」
そう言い切る勇者の顔面にシンシアの裏拳がめり込む。
「もういっぺん言ってみなさいよォオオオ!」
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