《第二十三章 勇者一行、南の島へ行く》①

 

 入道雲が浮かぶ青い空の下、白く眩しい砂浜に碧い波が打ち寄せては返しながら、波しぶきを立てる。


 「海ーーっ!」


 勇者一行のひとり、魔女のライラが喚声をあげながら砂浜を駆け抜ける。

 黒の水着で覆われた巨乳がたゆんと揺れる。


 「ライラさん、そんなにはしゃぐと危ないですよ」


 浜辺に刺したパラレルの下でセシルが日焼け止めを塗りながら言う。


 「ライラ! 泳ぐ前に準備運動しろよ!」夫のタオがたしなめると、ライラがぶーっとふて腐れる。


 「素敵……これが『海』というものなのですね……」


 涼やかな音色を思わせる声はエルフのレヴィだ。陽光を受けてきらきらと輝く金髪を靡かせている。

 薄緑色の水着にパレオは絶世の美貌を誇るエルフによく似合っている。

 その隣で「じゃろ? 俺ぁは冒険の途中で見たことがあるがの」夫であり、ドワーフのアントンが腕を組む。

 ドワーフとエルフ、人間とは異なるふたつの種族は主に山や森の中を住み処としているため、海を初めて見るのは珍しいことではない。

 この微笑ましい光景を後ろのほうで海パン姿に腹の突き出た勇者がうんうんと頷く。


 「やっぱりみんなで来てよかったな! だろ? シンシア」

 「う、うん……」


 勇者の隣に立つ、妻で幼なじみのシンシアは水着姿でもじもじする。


 すごい……みんな良い体してる……それに比べて、あたしは……。


 シンシアは自らの実り乏しき胸を見下ろす。せめて少しだけでも、と両腕で胸を寄せてあげる。


 「なにやってんだ?」

 「別に、なんでもない……」


 事の起こりは一週間前にさかのぼる。


 「大当たり~~!!」


 街の中心にて、がらがらとハンドベルの音が鳴り響く。

 シンシアが買い物でクジ引き券をもらって試しにと、多角形をした箱のハンドルを回すといきなり一等賞の金の玉が出たのだ。


 「おめでとうございます! 一等賞は南の島、ポラポラ島のプライベートビーチの優待券です!」


 帰宅したシンシアが勇者に事のあらましを話すと、「せっかくだから仲間のみんなも誘おう!」と提案し、年に一回仲間が集まる日に皆に打診したところ、


 「海ですか。いいですね! 久しぶりなので楽しみです」

 「セシルちゃんが行くならウチも行くわ!」

 「海か。そういやノルデン王国じゃ寒稽古でしか行ったことないな」

 「俺ぁも行くぜ。レヴィも連れてきても構わんな?」


 一同が賛成したので、こうして南に位置する島、ポラポラ島にてかつて魔王を討伐し、世界に平和をもたらした英雄一行はバカンスを楽しむことになったのだ。


 「セシルちゃん、はよおいでやー!」


 準備運動を適当に済ませたライラが波をばしゃばしゃ言わせる。


 「もうライラさんたら、子どもみたいにはしゃいで……」


 そう言いながらもセシルはうきうきと海へと入る。

 そんなきゃっきゃっとはしゃぐふたりをレヴィがくすくすと笑う。


 「あれ? レヴィさんとアントンは泳がないのか?」


 勇者が水着姿のドワーフとエルフに聞く。


 「恥ずかしい話なんだが、俺ぁたちは泳げねぇんだ」ぽりぽりとアントンが頭を掻く。

 「えぇ。ですからわたくしたちはここから離れた入り江で砂遊びをしようと思ってますの」レヴィがドワーフの太い腕に自分の細腕を絡める。

 「そうなのか。でも、もったいなくないか? せっかくこんなキレイな海なんだから、みんなでわいわい騒いだほうが」


 言い終わらないうちにシンシアが「ちょっとは気をきかせなさいよ」と勇者の耳を引っ張る。

 いてててと勇者が涙目になる。レヴィがくすくすと笑う。


 「では私達は入り江に行ってきますわ」


 奏でるような声を残してアントンとレヴィは入り江へと歩いて行く。

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