《第二十章 勇者修行志願!》③

 

 「ふぃ~っいい湯だな」

 「はい」

 「というか風呂でもついてくるのな」

 「勇者様のおそばにずっとついていくと誓いましたから」


 風呂場の湯船で勇者と勇者修行志願の少年マルチェロは勇者を尊敬の眼差しで見つめながら湯に浸かる。

 その純粋な目で見られては落ち着かない。


 「明日は剣技を教えてください。木剣も持ってきてますから」

 「んー……」


 剣か……剣はずっと握ってないしな……かと言って無下に断るのもな……。


 途端、ぐうたら勇者の頭に知恵が浮かぶ。


 「よし! 明日は剣の特訓だ。辛いかもしれないが、ちゃんとやるんだぞ?」

 「はい!」


 翌朝、勇者とマルチェロは朝食の目玉焼きとベーコンをあっという間に平らげる。


 「よし、今から剣の特訓だ!」

 「はい!」


 勇者とマルチェロがふたり外に出るのをシンシアがやれやれと肩をすくめながら見送る。


 まったく、子どもみたいなんだから……。


 食卓の皿を流しに運んで洗うと、外から声が聞こえてくる。


 「そんなへっぴり腰じゃダメだ! もっと腰を落とすんだ!」

 「はい!」


 ちゃんと稽古つけてあげてるみたいね。


 シンシアがうんうんと感心する。

 だが、その次に聞こえてきたのはリズミカルにだが、聞き覚えのある音が聞こえてきた。

 硬いものでなにかを叩くような音だ。いや叩くというよりは切るような音だ。


 まさか本物の剣で……?


 心配になったシンシアが窓からうかがう。



 「よーしいいぞ! だいぶサマになってきたぞ!」

 「ありがとうございます!」


 ぱかんっと振り下ろしたナタで薪が真っ二つに割れる。すでにマルチェロの横には薪が積まれている。

 マルチェロがナタを振り下ろすなか、勇者は丸太に座りながら眺めている。

 剣の稽古と称してマルチェロに薪割りをやらせている勇者は悠々自適だ。


 さて、次はなにやらせようかな……?


 稽古にかこつけて次にやらせる仕事を考える勇者の頭をがしっと掴むものがあった。他ならぬシンシアである。


 「なにしてるの……?」


 みしりと音を立てて勇者の頭蓋骨が軋む。


 「い、いやこれは剣の練習で……」

 「あんたの頭も割られたいみたいね?」

 「ちょ、まっ! 頭が割れちゃうううう!」


 シンシアが力を込めると悲鳴があたりに響く。


 「ごめんねマル君。こいつの言うこといちいち真に受けちゃダメよ」


 シンシアがぱっと手を離すと勇者がどさりと崩れ落ちる。


 「は、はぁ……」


 マルチェロはナタを手に呆然と立つ。


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