《第二十章 勇者修行志願!》②

 

 マルチェロの勇者修行はまず勇者にぴったりとくっついていくことから始まった。

 その日の午後、勇者はいつものように暖炉のそばで寝そべりながら本を読んでいたが、すぐそばにマルチェロも勇者にならって横になって本を読んでいる。

 もちろんマルチェロ自身もだらけているわけではなく、勇者の一挙手一投足を真似ようとしているのだ。

 勇者が本のページをめくるとマルチェロもすかさずページをめくり、勇者がぽりぽりと尻を掻けばマルチェロもそれに倣う。

 そんなふたりをシンシアは冷めた目で見つめる。ただでさえ亭主のぐうたら勇者ひとりだけでも手に余るというのに、小さなぐうたら勇者が加わっては疲労が溜まる一方だ。


 「ねぇマル君、ギルドに行ったらどう? ここでごろごろしてるよりは修行になるわよ?」


 マルチェロの代わりに勇者が「ギルドは年齢制限があるからダメだ」と答える。そして再び読書に戻る。


 「はい。ですからこうして勇者様にくっついて心得を学ぼうとしているのです」


 マルチェロが本から顔を上げて言う。ふたり横になって本を読む様はまるで親子だ。


 あたしに子どもが出来たら、こんな感じになるのかしら……?


 ふ、と溜息をつく。


 「じゃあマル君、草むしりお願い出来る? お手伝いしてくれたら今夜のシチューに肉入れたげるから」


 シンシアの提案にマルチェロががばっと起き上がると「やります!」と言うなり、外に出た。勇者志願と言えどもまだ子どもだ。



 マルチェロが草むしりを終える頃には日が暮れ、家から夕餉の香りが漂い始めていた。

 約束通りシンシアはマルチェロの前に肉入りのシチューを、勇者の前には肉無しのシチューを出す。


 「あれ? 俺には肉ないのか?」


 勇者が文句を言うとシンシアが「働かざる者食うべからずよ」とぴしゃりと返す。


 「いただきます」


 三人同時に、それこそ親子のように自然の糧に感謝を述べると勇者とマルチェロはすぐさまシチューを口に運び始める。


 「おいしいです!」とマルチェロが舌鼓を打つ。

 「お代わりあるから欲しくなったら言ってね」

 「シンシア、俺にもくれ」

 「あんたはだめ」


 勇者がちぇっと舌打ちする。

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