《第二十章 勇者修行志願!》④
マルチェロが勇者の下で勇者修行を始めて三日が経とうとしていた。
だが、マルチェロは今、勇者に対して不満を募らせていた。魔王を討伐したあの英雄、勇者がこんなにも弱くなっているとは思いもよらなかったからだ。
おまけに修行らしい修行をひとつもさせてもらってない。それどころか勇者の妻、シンシアのほうがよっぽど勇者らしい。
「またあんたはごろごろばっかして!」
実際、今でもこうして勇者がシンシアから小言を言われている。
そんな勇者をマルチェロは雑巾を手に冷めた目で見る。
「あのー……雑巾がけ終わりましたけど……」
「ありがとマル君。じゃあ今度はこっち手伝ってくれる?」
シンシアに連れられてやってきたのは寝室の隣にある部屋だ。
扉を開けるとそこには様々な武器や盾が壁にかけられている。奥には伝聞で聞いたとおりの魔王に対抗しうる、聖なる鎧や聖剣が角に置かれている。
「すごい……」
勇者が冒険中に手に入れた武器武具を目の当たりにしてマルチェロが溜息を漏らす。だが、その勇者はいまやただのだらしないぐうたらな男に成り下がっている。
「それじゃマル君、このハタキで埃払ってね」
シンシアがマルチェロにハタキを渡すと自分もハタキで壁の剣の埃を払う。
「ここはシンシアさんがいつも掃除してるんですか?」
マルチェロがぱっぱっと埃を払いながら言う。
「そうよ。ホントはあのバカがやるべきなんだけど、しかたなくあたしがこうやって掃除してあげてるってわけ」
まったくと不満をぶつぶつ零しながらも埃を払う。と、「あら?」と天井の角を見る。
そこにはいつの間に出来たのか蜘蛛の巣が張られていた。
「もう……蜘蛛は嫌いなのに」
シンシアがすたすたと聖剣のほうへ歩くと剣を手にして、えいっとばかりに蜘蛛の巣を取り除く。
「この剣、長さがちょうどいいのよね」
それって聖剣なんじゃ……。
マルチェロがあっけに取られている間にシンシアが蜘蛛の巣を屑籠に捨てる。
「これでよし、と」とぱんぱんと手をはたく。
「あの、シンシアさん」
「なぁに?」
「その、シンシアさんは、どうしてまだ一緒に暮らしているんですか? あの勇者様がだらしなくなって……」
マルチェロに問われたシンシアはんー……と人差し指を顎にあてがって考える。
「やっぱり、一緒に暮らしてて楽しいから、かな? そりゃ新婚の時はもっと体が細くて顔もカッコよかったわよ」
でもね、とマルチェロのほうを見る。
「マル君はまだ子どもだから分からないかもしれないけど、長く一緒に暮らしてると、いて当たり前のような存在になるのよ。だらしなくても、ね」
シンシアがにこりと微笑む。
「……ぼくにはわからないです」
「いつかわかるときが来るわよ」
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