《間章 始まりの地にて》

 

 村から街へ向かう街道から外れた、今は誰も通らない道をひとりの男が歩く。

 道と呼ぶには整地も舗装もされていない道をしばらく歩くと、木々と枝が行く手を阻むように突き出している。

 男は短剣で枝を斬り落としながら前へ前へと進む。するといきなり目の前が明るくなる。

 日の光が差し込む、開けたその場所は草が生い茂り、青くさい匂いが春の訪れを告げている。

 その開けた場所の真ん中に位置するところに白い、ところどころ塗料の剥げた一本の十字架が地面に突き立てられている。

 男は十字架のもとに膝をつくと一束の花を供え、冥福を祈るように手を組む。

 かつて、ここには村があった。そこかしこにわずかに残る家の残骸がかろうじて村があったことを物語っていた。

 もう十五年以上も前、男はこの村で生まれ、育ち、やがてある日、魔物に襲われて母親にかくまわれた。

 その母親は逃げる途中で亡くなってしまったのだが。


 黙祷を終えた男、勇者はすっくと立ち、膝についた土埃を払うと、くるりと踵を返して来た道を引き返して帰路に就く。




 いまや誰もいなくなった村には一本の十字架が陽光を浴びて燦然と輝いていた。


 十五年以上前、勇者の物語はここから始まった。


 それが語られるのはまた別の話……。

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