《第十一章 ローテン王国訪問記③》
ローテン王国の宮殿、シンシアが逗留している部屋でノックが鳴る。
「は、はい、どうぞ」とシンシアが応えると、両開きの扉から二人の侍女が「失礼致します」としずしずと入ってくる。
「そろそろお時間ですので、お召し替えを致します」
「さぁ、こちらへどうぞ」
二人の侍女が手際よくシンシアの衣服を脱がそうとする。
「あ、あの、あたし一人で出来ますから……」
「なりませぬ。英雄殿の奥方様がそのようなことをされては」
「私達にお任せください」
二人の侍女がシンシアが抵抗する暇もなくてきぱきと脱がし、新たに衣装を着せる。
「では、こちらにおかけください。化粧を施しますので」
「じっとしてくださいね」
「は、はぁ……」
されるがままに顔に化粧水、乳液が施され、その上に薄くファンデーションがはたかれる。
村では化粧はたまにしかしない。それもごく簡単な化粧だ。
「素敵なお肌ですわね。これなら化粧などしなくてもよさそうですわ」
「髪の毛も立派に手入れされているようですね。櫛がひっかかりませんわ」
二人の侍女に褒められ、「あ、ありがとうございます……」と顔を赤らめる。
「そういえば、王女様が見せたいものがあると仰ってましたけど、なにかあるんですか?」とシンシアがふと疑問に思ったことを聞く。
「お芝居ですよ」
「それも素敵なお話」
同時に返事が返ってくる。
お芝居かぁ……村では人形劇とか子どものお芝居くらいしかなかったっけ……。
シンシアの細い首に真珠の首飾り、次にきらきらと光る宝石の耳飾り、髪を纏めているリボンが解かれ、代わりにブローチで留められる。
「さぁ、出来ましたよ」
「こちらの姿見でご覧ください」
目の前の姿見を見ると、そこには質の良い生地で織られた、華美すぎないドレスに身を包んだシンシアがいた。
化粧を施されているからか、いつも家の鏡でみる顔とは違って見える。
これが、わたし……? きれい……。
シンシアがほぅっと溜息を漏らす。
「勇者様もそろそろお召し替えが終わる頃ですね」
「ではそろそろ参りましょう」
二人の侍女に促され、シンシアは部屋を出る。
すると、同時に隣の部屋から勇者とベルトルトが出てくる。
勇者も立派な、貴族の服に身を包んでいた。
「お、シンシアじゃないか」
シンシアがぷっと吹き出す。
「なんだよ?」
「だって、あんたがその服着ると、まるで甘やかされて育ったお坊ちゃんみたいだもん」とけらけらと笑う。
笑うシンシアの後ろの二人の侍女も顔を背けて必死に笑いを堪える。
「申し訳ございません。勇者様に合うサイズの服がこれしかございませんでしたので……このベルトルト、慚愧に堪えません」と例によって絹のハンカチを取り出す。
やっとシンシアの笑いが収まると勇者に問う。
「ね、ねぇ、どうかな……? このドレス……」
問われた勇者はあらためてシンシアを頭からつま先まで見る。
いつも一緒に暮らしているから嫌というほど顔を突きあわせているはずなのに、いつもとは違って見える。
恥ずかしさで頬にほんのりと朱が差したシンシアを見ると、すこし胸を叩かれた感覚を覚える。
「あ、う、うん。まぁ悪くはないんじゃねぇか?」と照れくさそうに言う。
「もぅ! ちょっとは褒めてくれたっていいじゃない」とふくれっ面のシンシア。
と、そこへテレーゼ王女がしゃなりと勇者とシンシアの前に現れる。
「あら、素敵ですわ。まるで
侍女とベルトルトが頭を下げたので、勇者とシンシアも頭を下げる。
「そう固くならなくても良いのですよ。では参りましょうか。ベルトルト、馬車を」
テレーゼの命にベルトルトが「はっ」と応える。
「お二方には、我がローテン王国が誇る劇場へご案内致します。最新技術の粋を凝らした舞台をぜひ、見ていただきたいのです」
勇者とシンシアがテレーゼと共に馬車へ乗り込むのを確認するとベルトルトは手綱をしゃんと鳴らして、馬を劇場がある城下町へと走らせた。
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