The Holy
鋼鉄の部屋だった。
ひんやりとした空気が通り抜け、彼女は目を覚ます。
「…………?」
全てが朧げで“自分”というモノすら彼女は認識出来ずにいた。自らが横たわっていた白いシーツの敷かれた固いベッドを見下ろした後、彼女は周囲を見渡す。
整然と並んだ幾つもの空のベッドがこの部屋の奥────見通す事すら出来ない闇の中にまで続いていた。
一体この部屋はどれだけ広いのだろうか、と彼女が疑問を抱いて闇の方へと歩き出そうとしたところ、ガシャンという大きな音と共に腕に痛みが奔った。
「……?」
右腕を見やると、幾つもの透明な管が繋がっており、その先には赤い液体の入った袋と車輪の付いた金属の棒があった。
これは知っている輸血液だ、彼女はそう思いながらも何故自分は輸血を受けているのだろうか、と考えた。
ふと、自分の身体を見て彼女は驚いた。
彼女は今、服を纏っていなかった。胸には白い包帯が巻かれ、下半身は白の下着だけの格好。
これで人と出くわす訳には行かない、何か纏えるモノ、と彼女は先程まで自分が寝ていたベッドのシーツを剥いでそれを羽織った。些か安心感に欠けるがとりあえずを凌げればよい、次に彼女は部屋の出口を求めた。
暗く明かりの乏しい部屋だったが、遠くに小さな明かりが見えた事で彼女はその方向へと足を進める事にした。
しばらく進む内に彼女は考えた。
何故こんな所に一人でいるのか。ここはどこなのか。何かの病気なのだろうか。何より、私は一体何者なのか──────。
彼女はひたりひたりとその白くたおやかな足を前へと進ませる。銀の髪を揺らし、赤い左眼と金の右眼を闇に浮かばせながら。
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