Black Hound.

「何も無いな。氷に見えるが、ここは……」

 黒装束を纏う厄狩り達の一人が白銀に覆われた氷の部屋で呟く。その周囲にはユエシィのクローンであるゼロ・シリーズの死体が無数に転がっており、夥しい量の血液が床を赤く濡らしていた。血と氷結の場内に十三の黒い影が蠢き、その先頭に立つ一人が声を発する。

「ゼロ・シリーズ。ゼラーの血から造られた人造の〈星の血を継ぐ者〉か。我々とは対極の存在だが、この分では失敗作と呼ぶ事も出来んな」

 そのしわがれた声の厄狩りがゼロ・シリーズの死体を足蹴にし、周囲を確認する。差異事象認識に乱れは無く空間変異の予兆は無い。黒のフードからのぞかせた蓄えられた白い顎髭を摩るとその厄狩りは腰の刀を抜いた。

「万物に綻びは生じるものだ」

 厄狩り達はみな同じ装備を有する。武装は一様に黒い刀であり、それには異常な力が施され特殊な施術を受けた彼ら厄狩りにしか扱う事が出来ない。その刀を引き抜いた厄狩りがおもむろに何もない空間にそれを振るうとそこに黒い亀裂が生まれ────次の瞬間には周囲の景色が変貌していた。

 再び現れる銀の娘〈ゼロ・シリーズ〉が無数に並び立ち、氷結の天蓋から注ぐ無垢なる月の光に照らされた玉座とそこに座し、虚な瞳で厄狩り達を見る男エルゴスム・ヌミノース。氷結城の主たる老人が冷たく暗い瞳を向けていた。

「その力。この世界のモノでは無いな? 貴様らは……いや、思い出した。なるほど〈天態種〉の機能を奪ったという事か。そうなのだろう? 厄狩り──いや〈事象の獣ども〉よ」

 変わらず虚な瞳を向ける老人に、白髭の厄狩りが答える。

「我々は例外、、。凡ゆる規範、法則、理から外れた。即ち世界より弾き出された……虚空を駆ける猟犬だ」

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