第二幕 18話 Insolences
熱砂、砂塵、灼熱──それらがアイネンの体力を奪い続ける中、対峙した神は悠然と彼の前に立っていた。
「神、か」
神の両手に揺らめく月光と陽光を見やり、あれらを搔き消すにはどうしたらいいかとアイネンは思考を働かせる。
アイネンの考えでは、あれこそ目の前の神の機能にしてその全てであると見ている。月光は夜、陽光は昼、つまり夜を時の終点、昼を始点として時間を円環状に繋げてしまう能力、それは埒外の産物に他ならない。
「ならば神越え、挑ませてもらおう」
言ってアイネンは熱砂の上に腰を降ろしていた。砂は衣服越しに皮膚を灼ける程の熱を持っていたがそれを気にすることも無くアイネンは鋭い視線を神に向けた。
テウト神は変わらず不動であり、アイネンに対し微塵たりとも意識を向けてはいなかった。
怪物と人を隔てるのは、見た目だけでは無い。人が人で在る条件は、言葉、信仰、他者と繋がりを求める普遍的な心、何かを拠り所にして幸福も苦難も等しく受け入れられる強固な精神性にある。怪物の条件として挙げられるのは『偏執的な心』を持つということだろう。何かに対し妄執、偏執、固執、どれだけ些細な事であろうと『ただそれだけ』の事に執心する。故に怪物とは『ただ在るだけ』で怪物なのである。
「やはり神がここに在る理由としては、この空間を維持すること、もしくは能力を行使し続けること……いやそれともその両方か。──怪物とは『ただあるだけ』で怪物、管理課と設計課も随分苦労してきたようだが、我々はComに属する者……神秘を収集し、管理、使用、破壊する。あらゆる未知を既知へと置き換える者、世界の開拓者にして人類の守護者。如何なる時であろうとその根底は揺るぐことは無い──!」
彼にとって幸運なのは、この神が能動的に攻撃してくる存在で無かったことのみ、それ以外は実に最悪なのだが、多少の余裕は生まれていた。
神とは試練を与える者。そうした特性故にアイネンは自身が未だに試されているのだと判断する。
──神を超える、言うのは易いが壁は高い。それこそ己自身が……。
アイネンの思考に淀みが生じる、視界も揺らいでいる。数メートル先に立つ神すら揺らいで見えていた。
空間を満たす熱の高まりをアイネンは感じ取っている。気のせいでは無く、実際に熱は高まりアイネンの命を燃やし尽くそうとしていた。
明らかな危機である、それでもアイネンは自らの死に直面してもその心に波風を立ててはいなかった。未だ視線を神へと定め、超える為の手立てを一つ一つ模索していた。
Comの管理・認識する
大きく分けて五段階の危険度が存在し、それは安全または接触プロセスにおいて危険度が低い〈
人に対して小規模の被害を出すとされる〈
中程度の被害を齎す〈
大規模な被害の前兆、または最悪の未来への扉とされる〈
世界規模の被害を与える〈
クラスを与えられるのは、既知に置き換えられた存在のみ。一定の研究で判明する事だが、事前にある程度の危険度を測る事は出来る。
ユエシィによって開発された危険度を推し量る機器、DER。これによってComの実働部隊は対象と対峙する事で大まかな危険度を測定し、対処方法を選択している。
──のだが、そうした危険度は対峙する中、リアルタイムで変動する大まかな目安でしか無い。
そうした場合、危険度が当てにならなくなってしまう、故に変動率の高い存在に対しては〈
脳裏によぎったそれらの情報の中、アイネンの中で更に嫌な予感が沸き起こった。
対象が
「ここまで脅威と思われているのも意外だな──私は貴様らにとっての
吠えたのは、眼前の神に対してでは無い、それを統べる氷結城の主に対してであった。
次に放つ一撃。それは
限界は近い。命が燃えている。それを切に感じ取り、アイネンの瞳も命の焔を移すかのように燃えていた。
ならば、と。
アイネンは腰を持ち上げガントレットに青い光を灯す──
「本当の奥の手だ。まぁここで死ぬのは私になる訳だが、な」
瞬間、神の目がアイネンを映した。
「漸く私を見たか。今更脅威を感じた所で遅い……貴様の傲慢が招いたのだ、化物風情がァァァッッ!!」
青い光が神とアイネン、両者を包み込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます