第二幕 幕間 Cordis



 この物語には『鍵』……あるいは『器』と呼ばれるモノが存在している。


 凡ゆる運命の基点、始まりの石。全てがその為に存在し、全てはそこに終着するという。それがある限り、この世界は救われない。

 

 世界を救う。それが我の命題だった。争い、飢餓、怪物、喪失。怪物は人を殺し、人は人を喰らう。この世は人が人らしく生きることを否定していた。


 世界は人智の及ばぬ彼方からの『病魔』に取り憑かれている。病魔はこの世界を、人が灯してきた光を狡猾にも我らから『簒奪』したのだ。

 その哀しみと怒りに心を痛め慄すことも、許されはしなかった。

 そうして気付いた、真にこの世界を救えるのは我が身のみであるという事に。


 我は『停滞』を望み、救済へと挑んだ。幾度となく繰り返される絶望に抗った。

 ひたすらに『負』の中で手立てを探し、狂っても尚、使命が我が身を『ただ往け』と突き動かした。


 ついぞ我はその存在を突き止めるまでには至りはしなかった。しかし、永き時を繰り返し、我は別の可能性を見出した。

 運命の基点に代わる存在の創造。つまりは新たな石を投げた。否、運命そのものを創造したのだ。

 星の血族の複製品は、ユエシィ・ゼラーを最後に絶え、正しい継承は成されていない。

 ならば新たに星の意思を継ぐ、正しき存在さえいればいい。


 エンヴィリオ・ゼラー。


 あれこそ真なる星の児、その中でも真に迫ったモノの胎から創った。故にあれには星の血が流れ、星を継ぐ者としての資格を有したのだ。


 運命など、認めはしない。全てが定められた事象であるなど、そんな絶望に膝を折りはしない。凡ゆる可能性は否定されて良いものでは無い。我はその全てを否定する為に、再び『正』へと浮上した。

 千の夜を幾度繰り返した末に至った、我が心を響かせるために。

 空蟬よ、定められた時をなぞるだけの虚い人どもよ。

 

 救済の時来たれり。


 

 


 


 

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