第一章 1歩進んで2歩下がるならついでに1歩戻ってみると案外いいかもしれない。
「こんにちは、警察です。」
青い警察官の制服に身を包んだ2人の男性がいた。
警察が家に来ると、どことない圧力を感じる。
「こんにちは、
まぁ、要件は察しているよ、
「はい、1週間程前に娘がいなくなったと通報を受けて、現在ここら一帯で聞き取り捜索しているんですけど、小さな娘さんを見たとかないですかね、」
「特には無いですね、何処からの通報だったんですか?」
「
麻間町は県で1番都市化されている
町と言っても面積は県で1番大きく、菜山町に近づくにつれて、アパートやコンビニなどが軒を連ねる、2年後にはショッピングモールの建設があるとかないとか。
「結構遠いんですね、」
「はい、私達も通報元の麻間町を探してみたんですが見つからなくて、それから、菜山町に捜索網を広げたんですがそれでも見つからなかったんです。それで、こちらの方々に聞き取り調査を行っているんです。」
「あぁ、そういう事、」
「はい、では何も無いという事で、何かあったら此処に電話してください。」
そう言って、電話番号が書かれてあるメモをもらった。
「はい、わかりました、」
「では、ご協力感謝します、失礼します。」
「お疲れ様です、」
がらがら、と戸を閉めた。
ふぅ、
緊張の糸が切れた。
さてと、どうしたものか、
嘘言っちゃったし、今すぐ行ったら怪しまれるしな。
しばらく時間あけるか。
トコトコと居間にもどる。
居間では、双葉がすやすや寝ている。
まだ時刻は14時過ぎ、お日様はてっぺんに近くて燦々と輝いている。
蝉の声も聞こえ、青い空を見ていると蝉の声と同化して一種のモノに見えてくる。
そりゃ眠くなる、見ていると心が穏やかになっていく。
そっと、双葉に近寄る。
双葉が寝返りをうつと、体育着がはだけ首元の鎖骨辺りやお腹が見えた。
よく見ると、お腹の辺りに青タンが見えた。
そっと体育着を捲ると、お腹には幾つもの青タンや傷痕があった。
山を2つ越えて来たんだ、何回かお腹をうったり、枝に引っかかったりもしたんだろう。
そっと体育着を戻し、その場を立った。
なにか塗り薬はないかと思ったが、ここは独り暮らしの男の家だ、そんな物は1つもなかった。
じきに日が暮れる、時間は長いようで短い、すぐに日は暮れる、時間は短いようです。
日課の絵を描き始めた。
よく家にいると空の絵を描くのだが、今日は双葉の絵を描くことに決めた。
自分の絵は他人から見れば拙いものだけど、とりあえず恥を知らずに描いてみると自分が見える感じがするからよく描いている。
自分はシャーペンと色鉛筆だけで絵を描く、すらすらと適当に自分が思ったままに描く。
寝ている双葉を上から見たような絵を描いた。
平面的で立体感など1ミリもない、容姿も全く似ていないあからさまなよくわからない絵だ。
じー、と見つめた後に、居間の奥の部屋にある自分の机にしまった。
よくわからない絵だった、けどそれ以上に自分も双葉の事は何もわかってないんだと思った。
時刻は18時過ぎ、お日様も蝉の鳴き声もまだ健在。
この暑さもあって、洗濯物はそれなりに乾いた。
双葉が着ていた服を紙袋に畳んで入れる。
立ち上がり、玄関の通路にある家電に手を掛け電話をした。
電話を終え居間に戻る。
居間に戻ると、双葉が起きていてみこ太と戯れていた。
「どう、ぐっすり寝れた?」
「うん。」
「そっか、よかったよ。」
「ありがとう、」
ぼさ、と彼女はそう言った。
「どういたしまして!」
そう言ったら、またみこ太と戯れはじめた。
「遊んでるところ悪いんだけどさ、そろそろお母さんのところに戻ろっか。」
双葉は戯れつく手を止め、
「うん、わかった。」
そう言った。
「じゃあ、行こっか。」
そう言って、靴を履いて双葉と一緒に外へ出た。
向かった先は家の裏にある、双葉が通ってきた山の手前だ。
右手には双葉が着ていた服が入っている紙袋、左手には双葉がギュッと手を繋いでいる。
「ねぇ、イクトお兄さんのお母さんはどんな人?」
双葉にそうきかれた。
「そうだなぁ、とても元気な人かな明るくはないけど元気な感じ、なんか言ってる事矛盾してるのかな、双葉のお母さんはどんな人なのかな?」
「お母さんは、わからない、」
「不思議な人なのかな、」
「多分そう、」
そんな、会話が1回きりだけで、後は無言で目的地に向かった、自分が話かけないといけないのに、いざとなるとどんな事を話せばいいかわからなくなった。
待ち合わせ場所には50分程かかった、其処には警察が居てパトカーが用意されてあった。
「すいません、遅くなってしまって。」
「いえいえ、大丈夫ですよ、この子が双葉ちゃん?」
「はい、」
「うん、写真と一緒だし間違いないでしょう、ご協力感謝します。」
「はい、あとコレ、元々着ていた服です、泥だらけだったので洗いました、この体育着は持ち帰っちゃって大丈夫なので、」
「はい、わかりました、じゃあ双葉ちゃんい行こうか、」
パトカーのドアが開いた。
双葉は立ち止まって、自分の手をギュッと握りしめた。
「どうした、双葉、」
目線を合わせて双葉にきく。
ただ黙っていて、何も返って来なかった。
「双葉?」
「あの、ありがとう、全部今まで、」
「うん、」
「ご飯美味しかったよ、いつもよりココが暖かくって、美味しくって幸せだった。」
「僕も一緒だよ、」
「だから、また、ご飯、一緒に、食べたいなって、」
「わかったよ、いつか、大きくなったらまたおいでね。」
「うん、」
夕暮れの、橙色の空が双葉の何かを際立たせる、自分は何かに気がついた気がしたけど、気がついてはいけなかった。
その想いをしまって、彼女がパトカーに入るのをただ見守っていただけだった。
この時に自分ができた事は何だろう。
双葉は笑えない。
猫の灯台 @kikikikiki
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