Dragoere −2−

 突如とつじょとして現れた空の大穴はディーノとカルロも気づいていたが、目の前の戦いを放って対処たいしょに向かえば、すきだらけとなった自分たちはいい的になるだけだ。

『邪魔ヲ、スルナァァァァ!!』

 バレフォルの炎はより苛烈かれつさを増して、ディーノたちに襲いかかる。

 陽炎かげろうのように現れては消えるカルロが攻撃をかわしながらも、バレフォルの体に刃を走らせる。

 カルロの奮闘ふんとうで、戦局せんきょく拮抗状態きっこうじょうたい維持いじしているが、それがいつまで続くかはわからなかった。


 ディーノも宙をり、炎の攻撃をえながら一直線につめ寄って、バレフォルの顔面に稲妻を帯びた拳を叩き込む。

 人間ならば首の骨が折れてもおかしくはない、体ごとの加速を込めた一撃だったが、バレフォルは何事もなかったかのようにディーノは向き直り、口から火炎の球を浴びせかけてくる。

 耳の間近まぢかで爆音が鳴り、視界はもう何度見たかも忘れるオレンジ色に染まった。


 ディーノの頭の中に、取り落としてしまったバスタードソードのイメージがよぎるが、この状況で取りにいけるはずもない。

 朦朧もうろうとしてくる意識を無理矢理ふるい立たせるように、自分の脇腹わきばらに拳を叩き込んだ。

 バレフォルはすかさずひじから先を炎の剣に変えて、頭を真っ二つにせんと腕を振り下ろす。

 左右か後ろへかわそうとすれば、動作が間に合わずない。

 考える前に、ディーノは頭を低くしてそのまま懐へと飛び込んだ。

 間合いの内側に切り込んだほうが、最短距離で攻撃をよけつつ、被害を最小限にできる。

 そして、肝臓かんぞうへ向かって稲妻の拳を叩き込んだ。


 紫色の閃光がほとばしり、バレフォルの体が”く”の字に曲がる。

 人間同士で戦うならば、あごや顔面、側頭部そくとうぶを狙って追撃する絶好のチャンスだ。

 しかし、頭部への打撃は、先ほどの一合いちごうでほとんど意味をなさないことはわかっている。

 ならば、このままボディへ向けての攻撃を集中させて、ダメージを積み重ねていく。

 小さく、細かく、より速く、一撃の威力よりも小回りを重視しての連打。

 ディーノの拳が入るほど、バレフォルの体がひび割れ、破片が飛び散っていく。

 生物とも、金属とも言いがたい感触かんしょく、自分もまたほとんど変わらない体が徐々じょじょに徐々に砕け始める。

 行けるかと思われたその瞬間、バレフォルの腹部にがっぽりと言う音がふさわしい大穴が開き、ディーノの腕をそのまま飲み込むと同時に、鎧の皮膚ひふを貫く痛みが走った。

 強引に引き抜こうとすれば、そのまま腕が食いちぎられる。

 頭の上にオレンジ色の光が集約するのが見てわかった。

 先ほどの火球をこの状態で叩き込まれれば、吹き飛ばされた反動で腕がちぎれ飛ぶ。


 ディーノは発想を逆転させる。

 腕が取り込まれていると言うことは、こっちからも体の内部に攻撃できると言うことだ。

 意識を集中し、体の中心にあるヴォルゴーレの宝石に、身体中のマナをかき集めていく。

 そして、集まったマナを取り込まれた左手の一点へと送り込み、それを一気に爆発させる!

 バレフォルの口から大火球が放たれるよりも一瞬速く、ディーノの左腕から稲妻がほとばしった。

『グギャアアアァァァッ!!』

(効いた!)

 腕を貫く牙がディーノのマナで破壊されるのを感じ、そのまますかさず腹に蹴りを入れ、逆にバレフォルの体が大きく吹き飛ばされた。

 間合いが再び開いてしまったが、鮮血で染まった左腕は無事だ。


 だが、安堵あんどしているひまもなく、再び炎の矢のつるべちがディーノたちに襲いかかってきた。

 間合いを詰めては離れのいたちごっこを延々と繰り返しているだけでは、きりがない。

 バレフォルの宝石を破壊するだけの決定的な一撃が足りない。

 炎の矢に向かって再び飛んだ瞬間、矢の群れが一斉いっせい軌道きどうを変えた。

 ディーノの正面から見て八方向に広がり、そのまま死角へと入り込んだ矢が背中へと突き刺さる。

 意識が正面に向きすぎていた。

 無防備な背中を狙われ、激しい高熱と痛みが全身を駆け巡り、流れ出した血が蒸発じょうはつして赤い煙をあげる。


 炎の矢は暴風雨のごとく、ディーノの周囲に広がって死角から入り、どれだけ動き回っても計算され尽くしたように突き刺さる。

 ぐにゃりと視界が歪んでいくのは、血を失い始めた証拠だ。

 このまま永遠に覚めない眠りが近づいてくる気がした……。

 また、守れないのか?

 そんな弱い考えがディーノの頭をよぎったときだった。


「がんばれえぇーーーーーっ!!」

 どこからかわからない、しかし、確かに聞き覚えのある声が、ディーノの耳には届いていた。

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