インフェルノ −4−

『懲りないねぇ、君たちも』

 バレフォルの体から突き出た無数の砲門が、今度はディーノたちの方向へ向いた。

 周囲へ拡散かくさんするのではなく、一点にねらいを定めた熱線ねっせん集中砲火しゅうちゅうほうかが放たれる。

 ディーノは稲妻の剣で自分だけに命中するものだけを斬り捨て、さらに前進しようとした瞬間、弾き飛ばしたはずの熱線が再び方向を変えて襲いかかってくる。

『「ライト」「ウォール」「反発リパルション」”煌きの障壁グリッターオブストラクション”』

 だが、それはアウローラが作り出した光の壁によってはばまれた。


 ディーノのすぐ後ろをアウローラとイザベラが追って援護してくれる。

 雨嵐のように飛び交ってくる熱線を全てさばくのは不可能に近いが、自分たちを狙ったものだけを対処すれば、自ずと前に道は開かれる。

 アウローラの障壁しょうへきもだが、それで防ぎきれなかった熱線は、イザベラが空間に穴を開けて透過とうかさせれば当たることはない。

「イザベラ、あいつのとこまで一気に穴を開けられないか?」

「この攻撃の渦中かちゅうで大きな穴を開けるのは、時間がかかりすぎますわ!」

 それができれば苦労はなかったのだが、おそらく空間の穴が開くまでに、自分たちが黒コゲになってしまうのだろう。

 地道に距離をちぢめて行くしかないと言うわけだ。


「みんな、今から木を出すよ!」

 フリオの一声とともに、ディーノたちの周囲に種が投げ込まれ、床を伝って木のマナが流れ込んで行く。

 芽を出した種は急激に成長を遂げて行き、バレフォルへ向かって伸びて行く。

 またたく間に地下室であったはずの空間に小さな森ができたような錯覚を覚えるほどだ。

「木を足場にすれば近づける! あんまりもたないだろうから早く!」

 この魔術は攻撃のためでも防御のためでもない。

 どんなに木をしげらせても、バレフォルの炎に対して決定打を与えることはできないが、何もない空間で狙い撃ちにされる状況を変えることはできる。

 ディーノたちが接近し、なおかつ一瞬でも身を隠すことのできる障害物を作り出すことが、フリオにできることだった。


 ディーノたちは言葉を交わすことなくうなずき合って、三方に別れて前進する。

 中でも、最も俊敏しゅんびんな動きを見せたのは、体の半分を猫に変えているイザベラだ。

 もともと森という環境で進化をげた動物であるゆえに、枝から枝へと器用に飛び回る彼女に攻撃を当てるのは至難しなんの技と言えた。

 ディーノは真正面まで伸びた幹を一直線に駆け上がり、アウローラは逆に”疾風の翼ゲイルウィング”で枝の届いていない天井スレスレを飛び、空中から攻撃のチャンスを狙う。

 バレフォルは一直線に飛ぶ熱線から、爆炎で面制圧の攻撃に切り替えてきた。


 視界が炎の赤に染まり、爆音が耳をつんざくが、攻撃の性質的に貫通力を高めた熱線よりも威力は落ちる。

 アウローラの”煌きの障壁グリッターオブストラクション”でも防ぐことは可能だった。

 巨体であるがゆえに、フリオの作り出した森の中では体の自由を奪われている。

 ディーノは幹の終点から大きく跳躍ちょうやくした瞬間、バスタードソードに稲妻が落ちる。

 その一閃がバレフォルの右腕を切り落とし、周囲の枝をへし折りながら土煙をあげて落ちた。


「あそこじゃねぇのか……?」

 むき出しになっているバレフォルの上半身は、ただの囮だ。

 体を融合ゆうごうさせた時に自身の宝石は、あの巨体のどこかに移動させていたと考えれば、先ほど心臓を狙っても失敗に終わったことに説明がつく。

 それだけでなく、あの中にはまだ肉体を得ていないディロワールの宝石もある。

 今の状況で敵のマナを探れば、隙だらけの状態になってしまう。

 雑兵ぞうひょうのソルンブラを相手にするのとはわけが違っているため、この方法は使えない。


 バレフォルが放つ爆炎を見て、もしもヴィオレのように強大でその全てを消し飛ばし、灰にするほどの稲妻を撃つことが出来たなら……。

 そう考えたが、仮に撃てたとしてもここがもし学園の真下だったら上にいる無関係な生徒も教師も巻きぞえにしてしまう。

 イザベラもアウローラも可能な限りの攻撃を繰り出して、ダメージを与えてくれているが、外部の装甲をいくら攻撃しても中にある宝石が無傷なら意味はない。


 八方塞がりかと思われた瞬間だった。

「みんな耳塞いで!!」

 天井から声が聞こえた。

『「ウィンド」「衝撃ショック」「粉砕クラッシュ」”破壊の歌デストラクションソング”』


「わああああーーーーーっ!!」


 空間そのものをるがすシエルの大音響が地響きさえも引き起こす。

 耳をふさいでいても体が内側から破壊されてしまいそうな衝撃に、バレフォルの外部装甲が音を立てて砕けちっていく。


 そして同時に、オレンジ色の閃光が一直線にバレフォルの体に突き刺さった。

「奴はそこだ!!」

 カルロの声が聞こえると同時に、打ち込まれた一撃の正体が炎をまとったショートソードだとわかる。

 期末試験であったことがディーノの頭の中で思い起こされた。

『ぐはっ……なぜ、宝石の位置が?』

「音は反響するもんだよ……、おかげで、耳が潰れかけたけどね!」

 シエルの放った音の魔術は装甲を破壊するだけでなく、宝石を探知するための布石だったということだ。

「行けディーノッ!!」

 カルロが言葉を発したその時すでに、ディーノはバスタードソードを振りおろしていた。

 

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