紅蓮の魔術士
バレフォルの作り出した亜空間の中に、アウローラ、フリオ、イザベラ、アンジェラは連れ込まれていた。
『さて、君たちにはこの第三幕でご退場願おうかな』
アウローラたちの目の前でバレフォルは空中に
大量の本棚が並ぶ巨大な図書館のようであったが、そこに積まれた蔵書は一冊残らず炎を燃やすために存在していた。
本は知識の象徴でありながら、ためらいもなく焼き払うことはバレフォルの心理の表れか、あるいは何かの当てつけか。
そこまでで、アウローラは考えることを止めた。
シエルとカルロが別の亜空間に連れ去られたことと合わせれば、ディーノだけがあの場に残っている。
魔降術の使えないディーノが、あの巨大な合成ディロワールと戦えば結果は見えている。
なら、一刻も早くバレフォルを倒して、元の場所に戻らなくてはならない。
アウローラはブリュンヒルデを構えて
『「
アウローラの背中に光の翼が現れて飛び立ち、同時にもう一つの魔術を発動させる。
『「
精製された氷の矢がバレフォルへと一直線に飛んだ。
だが、バレフォルの炎はマナの相性をたやすく
けん制にすらならないことはアウローラも十分承知している。
あくまでも、欲しかったのはバレフォルとの距離を稼ぐための一瞬の間。
「やあぁぁぁっ!」
三叉槍を構えたアウローラはバレフォルの遥か上を取り、ハヤブサのごとく一直線に急降下する。
その瞬間、アウローラの視界はオレンジ一色に染め上げられた。
一拍遅れて響く爆音と衝撃でアウローラの体はいとも簡単に吹き飛ばされてしまう。
『残念だったね。君は天使どころか、
余裕を隠しもしないバレフォルに対して、アウローラは笑った。
次の瞬間、バレフォルに木の葉の嵐が襲いかかり、空中で釘付けにする。
たとえ炎のマナに阻まれてしまうとしても、気をそらすことができれば、相性が悪くともある程度の効果は期待できる。
『無駄だよ』
バレフォルは周囲に炎をまとわせて、木の葉が無惨にも灰となる。
「では、これならどうですの?」
『なにっ!?』
アウローラとフリオの役割はあくまでも囮だった。
イザベラをバレフォルへ近づけるために、三つの攻撃を重ねてバレフォルの意識をそらすための。
「にゃあああああーーーーーっ!!」
今までの打撃ではなく、イザベラの爪が両手の甲から四本、短剣のように伸びる。
振り下ろされた両手の一撃がバレフォルの背中を深々と斬り裂いた。
オセに取り憑かれていたあの時を彷彿とさせる攻撃、心情的には苦い経験だが、それを差し引けば今のイザベラにはマッチしている。
『やれやれ、完全に野良猫と化しているねぇ』
「勘違いしないでくださりますこと? 猫は犬と違って、人に
再び空中の追いかけっこが再開される。
さらに今度は前衛のイザベラが猫だけに引っかき回すだけではない。
「イザベラさん、退いて!」
フリオの声に従い、イザベラは後ろに飛ぶ。
『「
「どういうつもりですの!?」
ブリュンヒルデの魔術を発動させる音声が耳に入ったイザベラは驚きの声をあげた。
マナの相性的に、「風」のマナは「火」のマナを増幅させてしまう。
誰でも最初に習うマナ学の基本中の基本であり、アウローラほどの
しかし、アウローラの狙いが別にあることにイザベラはまだ気づかない。
うず巻く風がバレフォルを包み込んだ瞬間、バレフォルの動きががくんと鈍くなり、その口から黒い鮮血を吐き出した。
アウローラが放ったのはただの風ではない。
よく見れば渦巻いた風に小さな赤い花びらが混ざっている。
「効いたみたいでよかったよ。あんまり使いたくない手だけどね」
フリオが手に持っていた赤い花をさらに風の渦に向かって投げ込んだ。
『これは……毒か!?』
フリオが投げ込んだ花は、以前モンテたちに復讐した時、暴走したドリアルデの力で作り出したミレディゴラの花粉だ。
ドリアルデのマナで毒性を
本来ならば無造作に死をまき散らしてしまうそれを、アウローラの風で指向性を持たせたことで、バレフォルだけを狙う毒の一撃となったのだ。
『君といい、イザベラ君といい、まさか
バレフォルは全身から炎を吹き上げ、周囲を巻き込むほどの爆風が巻き起こる。
毒の付与があったとしても、あくまでマナそのものは風、それがバレフォルの炎に引火して、通常以上の火力を相手に与えていた。
しかし、フリオの毒がディロワールであっても効いている。
「やっぱり、ディーノ君もそうだけど、決して不死身なんかじゃない」
以前ディーノが戦った時も、この毒花粉には苦しめられていたことに基づいたフリオの目算は見事に的中していた。
『少々
ダメージを受けたバレフォルはさらに自身の火力を上げている。
今まではアウローラ達をただの学生、未熟な魔符術士と
「だったら、中途半端じゃない魔術を叩き込んであげる」
『「
アウローラたち三人が注意を引きつけた時間で、アンジェラは水の魔術を構成していた。
シェリアニアから放たれた冷気がバレフォルを包み込み、まとわれた炎さえも凍りついていく。
広がっていく氷の勢いはとどまるところを知らず、バレフォルの周囲にあった燃え盛る本棚さえも無数の氷柱に姿を変え、世界の色を命が存在することのない純白の死に塗り替えていった……。
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