絶望へのプレリュード −3−
「どうすれば、ソフィアさんたちを助けられるの!?」
明確な勝算もなく、具体的な作戦もないまま攻撃を加えれば、二人は死んでしまう。
アウローラの
本気で冷徹になれるならば、あの二人の命など
仮に魔降術が健在でも、どうせ自分は怪物として
(はっ、バカバカしい)
そこまで考えて、ディーノは自分を笑った。
簡単に切り捨てられるのなら、そもそもディーノは魔降術を失っていない。
「だったら、てめぇをぶっ潰して吐かせてやるっ!」
壁を踏み台にしてディーノはバレフォルへ飛びかかるが、浮遊しているバレフォルはそれを簡単にかわしてしまう。
バレフォルはそのまま体制を直して炎の槍を一本、ディーノめがけて放ってきた。
避けることは造作もないと思った瞬間、自分の立ち位置にディーノは気づいた。
とっさに着地したのは合成ディロワールの体の上、つまりこれを避ければ……。
「ぐっ!」
右足の太ももを炎の槍が貫き、ディーノの体に痛みと高熱が同時に伝わる。
そして、踏ん張りがきかなくなった体は、合成ディロワールの肩から滑り落ちていく。
「ディーノさん!」
アウローラは落下するディーノの体を、飛びながら追って受け止める。
「魔降術を使わないなんて無茶です。一体どうして……っ!?」
ここまで近づかれれば気づかれても仕方ないとディーノも理解した。
ヴォルゴーレの力がなくなっている今のディーノは、マナそのものを発していないからだ。
「どうして、こんな無茶を」
「あいつがカルロだと思ってたからな。手を血で汚すのは俺だけでいい。今更ひとりふたり増えたって大して変わらねーよ」
「なんでも一人で背負わないで! ディーノさんだけがボロボロになることを誰も望んでなんかいません!」
アウローラの叫びは、今までのディーノを見てきた全てがこもっていた。
いつだって、こんな顔だけはさせまいと戦ってきたはずなのに、気がつけばそうさせてばかりだった。
『人の好意に甘えるのは、恥じゃないんじゃないかなぁ?』
その有様に皮肉を込めて、バレフォルが再び炎の槍を雨のように降らせてくる。
『「
ディーノはアウローラに抱えられて低空飛行で離脱、さらに水のマナで精製された矢で炎の
マナの相性的にはこちらが有利だが、そもそもの力の差によって
このまま飛び回っていてもラチがあかない。
学園まで上がられたら全てが終わってしまう。
『「
アウローラの治療魔術が、ディーノの足の傷を治していく。
『逃がさないよ』
「あなたの相手はわたくしですわっ!」
追撃を仕掛けようとするバレフォルへと向かって、イザベラが天井から奇襲攻撃を仕掛ける。
超接近戦をハイスピードで仕掛けることができるのならば、遠隔攻撃は撃たれずにすむ。
今のこの状況でまともに接近戦ができるのはイザベラだけだった。
特殊な魔術はなにも習得していないが、この人間ばなれした身体能力で
浮遊して距離を取ろうとするバレフォルに対して、壁や天井を高速で走って追いすがる。
「にゃあああああーーーーーっ!!」
人間ではありえない軌道で繰り出される猫パンチの連打。
イザベラの戦法は、魔符術を使っていたときに比べれば、一切の
純粋なスピードだけで言えば、この場の誰よりも上を行っていた。
『くっ、なかなか厄介に育ったねぇ』
この場の誰もが目で追うことしかできない。
「あとはどうやってあの子たちを助けるかだよね……あっちは僕が食い止める!!」
フリオはポケットの中にあった種の袋を取り出し、残りの十数粒を合成ディロワールに向かって投げつける。
『よーし! やっちゃうよーっ!』
ドリアルデとフリオのマナが種を急激に成長させて
バレフォルをイザベラが引きつけていれば、動きを止めることだけはできるという目算があってだ。
「アンジェラ先生、ディーノとバカルロをお願い! あたしとアウローラでソフィアちゃんたちをなんとかしよう!」
その瞬間だった。
『そうはうまく行かないんだよねー』
今まで忘れていたもう一つの声が響き、シエルに向かって水の刃が迫る。
「シエルさん!」
アウローラがとっさに障壁を展開しようとするが、間に合わない。
鮮血が飛び散り、空間を真紅に染めあげた……。
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