絶望へのプレリュード −2−
巨大な魔獣の腹の中、そう形容するのが最もわかりやすいとディーノは思った。
どんな構造になっているのかはわからない、だがこの部屋は
無数にめぐっている管は
『ようこそ、
バレフォルの言葉とともに、空間の全体が明るく照らされる。
ディーノたちの目の前にあった、
自分たちの身の丈よりも両腕は長く、背中には巨大な翼を生やし、頭はワニのようで牙だらけの口は人間などたやすく飲み込んでしまいそうだ。
あえて言うならば、
魔獣が心臓とする複数の宝石が”
体のいたるところにディロワールと同じ黒い宝石が入り込んでいたが、ディーノたちの視線はそれとは別の部分に釘付けだった……。
「ソフィアちゃんと、レオーネ君……」
シエルが
胸の部分に二箇所、ガラス玉のように透けた部分にソフィアとレオーネがそれぞれ入り込んでいたのだ。
『気に入ってもらえたかな?』
その肩の上に乗ったバレフォルは、あざ笑うような言葉をかけて来た。
見た目の
「マクシミリアン?」
アウローラが疑問の答えをつぶやいた。
『魔獣と人間と我々、なかなかいい線を行っている。だがアレは失敗だった。彼の意志は強すぎて、お互いの力さえも阻害してしまっていたからねぇ』
『そこで、まだ精神が未成熟な子供を使ってみることにしたんだよ。そしてこの器は魔獣ではなく我々の宝石と魔動機械技術を応用したものだ。合成ディロワールとでも名付けよう。そして、起動だ』
バレフォルが指を鳴らすとともに、黒い宝石は輝きだし、合成ディロワールが動き出した。
胸部分にあるソフィアとレオーネが入った場所の間から、鳥のような頭部が姿を見せる。
『ここは……バレフォル……貴様、我々の体に何をした!』
『おやおや、真っ先にお目覚めかい? ちょうど良い、君がこの計画の
『どう言う意味だ?』
『君達もそろそろ動ける体が欲しいだろう? 今この上に大量の器を用意してあるから好きに使うといい。その機械の体には人間のマナを吸い取る力も持たせてある。そう君の力でディロワール達が”転生”するんだ』
バレフォルの口ぶりを聞いて、ディーノ達は顔色を変えた。
マクシミリアンの一件は、この合成ディロワールを完成させるためのステップに過ぎなかった。
学園内に生徒を閉じ込めるための結界も含めてだ。
「ふざけんな……」
バスタードソードを握るディーノの手に力がこもり、飛び出していた。
まだ動き出す気配のない合成ディロワールの長い腕に飛び乗って、そのまま駆け上がって行く。
そして、バレフォルへ向かって斬りかかっていた。
振り下ろされた刃は金属的な音を立てて、バレフォルの手の甲で受け止められていた。
『ははは、熱いねぇ。火のように熱い、実に激情家の君らしいじゃないか』
「うるせぇよ。こんなくだらねぇことのために、こいつらをさらったのか!!」
『そうだねぇ。子供なら誰でもよかったんだけど、強いて言うならば、君と親しいからだよ。舞台を盛り上げる
壁の方へ弾かれたディーノは片手を伸ばして管につかまり、
「……許せない。ディーノさんを苦しめるためだけに、あの子たちを利用したなんて」
「全くの同感ですわ! 思い通りになんてなってやるものですか!」
アウローラとイザベラがお互いにうなづき合う。
それぞれが
『「
「イザベラさんはレオーネ君を! ソフィアさんはわたしが」
「まかせなさい!」
アウローラが飛行の魔術を展開して空中へ飛び上がり、イザベラはディーノがやったように向かって右腕を全速力で駆け上がった。
『させないよ、ゆけっ!』
バレフォルの号令とともに、合成ディロワールは翼を羽ばたかせ、空間を突風が舞う。
アウローラは大きく体制を崩して押し戻されてしまった。
さらにワニ顔の口からは巨大な
「よーし、あたしもっ!」
シエルは
合成ディロワールは片方の翼が動きを封じられたことで飛行のバランスを崩した。
「これならどう!」
アンジェラがたたみかけるように魔術を発動させる。
『「
合成ディロワールが地面に着地したところを待ち構えるように、アンジェラが魔術で平坦な地面を罠の床に作り変え、下から胴体に石の棘が突き刺さった。
だが、その瞬間だった。
「痛いっ! 痛いよぉぉぉぉっ!」
「助けて! 助けてぇっ!」
中にいたソフィアとレオーネが意識を取り戻し、苦しみ始める。
『言い忘れていたけど、その二人の体は繋がっているんだ。傷を受けると同じように苦しむ。痛みが強すぎるとショック死してしまうかもねぇ』
「そんな……」
アンジェラは背筋から全身に震えが走った。
攻撃を加えるほど、中にいる人間を苦しめる、二重三重に仕掛けられた罠にではなかった。
人ならば踏み止まるであろう残酷な策を次々と
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます