なぜ君は、悪魔に魂を売ったのか? −6−
「ここから先は先生がやるから、みんなはおとなしくしてること! いい?」
ずぶ濡れになったディーノたちは全員座らされて、アンジェラが改めてカルロと対峙する。
「今度はアンジェラちゃんね。まぁ別に誰でも同じだけどさ」
「先生も無理に聞こうとは思ってないよ。答えられないことはそう言って構わないから」
「ほんとにお優しくっていいのかい? 今この場で僕が縄抜けしようとしてるかもよ?」
相手が担任の教師であろうとも、カルロの態度は
「それは心配しなくてもいいよ。今呼び出した水を凍らせて動きを封じることくらいはできるから」
アンジェラの返答にカルロの表情は変わった。
ただ感情的に水の魔術を使っただけでなく、次の一手を打つ
「いつから、そのディロワール? のことを知っていたの?」
「入学前の説明会から」
答えるカルロにアンジェラはそれだけで顔色を変えた。
そこまで過去にさかのぼるとは考えていなかったのだろう。
「シエルさんのお兄さんはあなたが殺したの?」
「それはまちがいないよ」
「って、この質問じゃさっきと一緒ね。それじゃあ、質問を変えましょうか。お兄さんを
「答えられない」
さらにアンジェラの質問は続く。
「何のためにディロワールに協力しているの?」
「……こっちの方が楽しそうだから♪」
カルロは一見おどけた態度を崩さないかのように見えたが、ディーノは表情が変化した一瞬を見逃さなかった。
「ダウト! カルロ君、本当のことを言って」
アンジェラもそれは察したようで、深く踏み込んでいく。
「……答えられない」
「それは自分の身が危ないから?」
「答えられない」
カルロは自分のことを話す気がないことが、この一連の質問を聞いてよくわかった。
「なら、ディーノ君たちが追っているバレフォルの正体は?」
アンジェラが質問を変えた。
このままカルロを追求しても目立った収穫はないと踏んだのだろう。
いつまでもソフィアとレオーネが無事でいる保証はなく、現状を打破することを優先するのは当然だった。
「この中では、アンジェラちゃんが一番よく知ってる人」
「えっ?」
これまでの態度とは裏腹に、あっさりと答えたことに、この場の全員が顔色を変えた。
言ってみれば、自分より立場が上の相手であるはずなのに、なぜその情報をあっけなく渡すのか?
「別に大したことじゃないよ。僕がディロワールになったときには、七星の椅子が一つ開いてると思ってさ」
その言葉を信じるならば、敵もまた
「ディーノ君なら勝てるって思ってるの?」
「それはわからない。けど、戦わせておいておいしいところをかっさらうのも面白そうだよね」
本心ではカルロがどう思っているか、ディーノにはわからない。
そもそもアルマはシエルが持っている時点で、どうやってこの状況を脱する気でいるのかもだ。
「なるほど……わかった。それじゃあ、ここは終点? まだ先はある?」
「僕の胸ポケットに黒いカードが一枚入ってる。それが僕たちだけが持てる通行証」
フリオの魔術で
これまでに見てきた七角形の紋章が赤い線で刻まれた、黒一色の金属的な輝きを放つそれは、カード化させたアルマにも似ている。
「そのカードがあれば学園の中にある遺跡、まぁこことあの地下教会ぐらいだけど、自由に出入りできる」
「自由に……カルロ、もしかしてあの時は」
シエルが何かに勘付いたように呟く。
「考えてる通りだよ。部室があそこに繋がってたんじゃない。僕が手引きしたんだ」
最初からカルロの思惑通りに、ディーノたちは動かされていたということだろうか?
「だったら、あれは嘘か?」
思わずディーノはカルロの目の前までつめ寄って問いただしていた。
「あれ? いったいなんのことだい?」
「わざわざ俺を殴ったのも、全部芝居か?」
「そんなこともあったっけねぇ……。探りを入れろって言われてたから、信用させるのにそれっぽいことしただけ」
さらにカルロは続ける。
「自分でもわかってんだろ? ディーノは自分が思ってるほど非情にも冷徹にもなれないって」
「かも知れねーな。けどよ、お前がずっと自分をごまかしてるってことも、気づかねーと思ったか?」
今度はカルロの顔色が変わる番だった。
「腐った奴らはいくらでも見てきたんだよ。少なくとも、お前の目には腐った奴特有の
「ハズレだよ。僕を……買い被るな」
「そう来ると思ったよ。だから今は何も聞かねーし、それをいの一番に知る権利があるのも俺じゃなさそうだからな。ブツは手に入れたんだ。さっさと先へ進もう」
ディーノはアンジェラが持っていた黒いカードを取って、部屋の中央にあたりをつけて行動に移った瞬間だった。
『やれやれ、君は悪魔の器にはなれなかったようだねぇ』
どこからともなく聞こえた声、それは間違いなくバレフォルのものだった。
それを認識した瞬間、急速に火のマナが周囲に集まって行くのを、ディーノ以外は感じ取っていた。
特定の誰かか、この場にいる全員なのか、攻撃が来るとみがまえた瞬間、炎が噴き上がる。
「ぐわあああっ!!」
その炎が狙っていたのは、抵抗できる手段を失っていたカルロだった。
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