もう一つの遺跡
掃除用具入れから降りた先にあったのは、石造りの部屋だった。
「アウローラ、明かり出せるか?」
「はい」
『「
天井までの高さはおよそ二メートル半、広さとしては開かずの教室の三倍はあると思われた。
支えている柱は七本、部屋の構造としては一風変わっている。
そして中心部にはそのまま縮図にしたような、色違いの白石で分けられたスペースの中心に同じく七角形の紋章が刻み込まれていた。
「ディーノ、これ見覚えない?」
シエルの一言から記憶の糸をたぐり寄せていく。
思い出すのもはばかられるほど忌まわしい、マクシミリアンがアウローラを拉致した一件で入り込んだ地下教会に、これと同じ紋章がかかげられていた。
「調べられそうなのはこいつくらいか」
全員が紋章に近づいたその瞬間、紋章は赤く光り輝き出し、ディーノ達は引っ張り上げられるような
この感覚にも覚えがある。
学園で使っている”転移の門”と部室から地下教会へと入り込んだときのことだった。
* * *
「ディーノ、起きてディーノ!」
気がつくと、自分は倒れていたらしい。
視界にはしゃがみ込んで自分を見下ろしながら、体を揺すって起こすシエルの顔が見えた。
「ここは?」
「わかんない。でも、あたしたちだけみたいだよ」
周囲は光源もなく真っ暗で、自分たちがどこにいるかもわからなかった。
「ねぇディーノ。フリオ君に聞いたんだけど光の玉とか出せるんじゃなかったっけ?」
期末試験の時に使った魔術のことを言っているのだろうというのは予想がついたが、今のディーノでは不可能だった。
服のポケットから火打ち石とロウソクを取り出して、石床に打ち付けて火を
不測の事態に備えて簡単な道具は忍ばせてあった。
「わざわざこんなの持って来たの?」
「少しでも力を温存して起きたいんだよ」
明かりが灯った周囲は、出口がなく前だけにまっすぐ伸びた通路だった。
あの時と同じで、複雑な分かれ道がなく、その先へ
ディーノの推測は、
「進むしかねーだろうな」
しかし、不安要素は魔術が使えないことだけではなかった。
この先に待ち構えているのはバレフォルで間違いない。
魔術があっても敗れた相手に、自分だけの力で
「そう言えばさ、ディーノと二人っきりって何気に初めてじゃない?」
ディーノの気持ちも知らずに、のん気な雑談を持ちかけてくる。
「あれ、無視? アウローラかイザベラが良かった?」
「あぁ、イライラする。いっそここで大人しく待ってろって言いたくなる」
それなら、酷な現実をシエルに味わわせる必要はなくなると考えたのだが、その希望的観測は見事に打ち砕かれる。
「あたしは行くよ。本当のことを知る手がかりが見えてきたから」
「そうか……。お前こそ、カルロと一緒の方が良かったんじゃないか?」
「なっ! ディーノまでそんなこと言うわけ!? 腐れ縁だってばほんとにもう!」
まさか自分にからかわれる日が来るとは思いもしなかったのだろう、今度はシエルがしどろもどろになる番だった。
そもそも、この二人の関係についても知らないことは多い。
カルロはなぜシエルに近づいたのか、自分にとっても危ういことに近づこうとする不安要素なら、即座に始末するに限るだろう。
ディーノが向こうの立場であるなら、ためらうことなど何もない。
どんな後ろ盾がいるかもわからないが、下手をすればアンジェラの世代から学園を隠れ
「逆に興味深いけどな。お前らがいつ出会ったのか」
「大した事じゃないよ。中等部で入学した時から同じクラスでね……」
『あぁ、その美しい金色は太陽さえも霞んで見える。君の元へ飛んで行くためにロウで作った僕の恋の翼さえも溶かしてしまいそうだ』
『何をおっしゃってるんですか?』
クラスの綺麗どころの女子、アウローラとかイザベラに声をかけては玉砕し、その日のうちに半数はカルロに
最初はあきれ返る思いしかわかず、ただ無関心だったようだ。
シエルがそれから自分の目的を果たすために、旧校舎を調べ始めた時だった。
『ふんっ! ふーんっ!』
古い教室の小窓を抜けようとしたら腰が引っかかってしまって動けずにいた時、カルロは声をかけてきたと言う。
『ねー、そこで何してんのさ?』
『あんたには関係ないでしょ!』
『まぁ、僕としては絶景なんだけどねー♪』
『な、何見てんのよバカ! あっち行けっての!』
結局、見かねたカルロに引っ張り出されたのがことの始まりだったらしい。
「まぁ、そこからことあるごとにあたしにちょっかい出してきたんだよね……」
学園七不思議研究会を作った時も、特に疑問も持たれずに最初から一緒にいた言うことだった。
「何考えてるのかわかんないやつなのに、気がつくと一緒にいてくれるってゆーかさ……。バカやってるようにしか見えないくせに、目を離したらいなくなっちゃいそうな、さすがにやっぱり逃げたってことだよね」
「それだったら、まだ気が楽かもしれねぇな」
ディーノは聞かなければよかったと内心後悔していた。
これでまた、殺すことをためらう理由が一つできてしまったのかもしれない。
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