開かずの教室

 初等部の怪物かいぶつさわぎが起きた週明けの日、アンジェラの言っていた通りに初等部は、残りの生徒の安全のため、臨時休校と言う事になった。

 中等部と高等部に関しても、今日の登校を最後だと言う通達が来ていた。

 あまり気乗りはしなかったが、行かなければ行かないで不審ふしんに思われるだけに、ディーノも教室には顔を出したのだが……。

 なぜか各教室で多くの生徒がざわついている。

「ディーノ! 大変だよ大変!」

 自分を見たシエルが血相を変えて人だかりができている教室内の掲示板に手を引っ張ってくる。

 それは、いつもの学園新聞が朝早くに貼られていたらしいのだが、その見出しの内容にディーノもまた平常心を失いそうになった。

『謎の怪物初等部に現れる! 白と黒の恐怖が学園を襲う!?』

 どこから撮られていたかはわからないが、初等部で姿を変えたディーノとバレフォルがグラウンドで戦っていたときの写真がデカデカと見出しを飾っていた。

 しかも、居合わせていたはずのアウローラやイザベラの姿はなく、対象物以外をぼかしてある。

 学園の人間が対象でなければ、載せることに許可を得る必要はない。

「テレーザ先輩、いくらなんでもやりすぎじゃないこれ! 新聞部に抗議しにいこ!」

 我を忘れかけているシエルの首根っこをつかんで、それを阻止する。

(取り乱すな。迂闊うかつに動くな。これが敵の狙いだ)

 そして、小声でいさめて席へと戻す。

 魔降術が使えない今なら誰に見られる心配もない。

 自分も席に座るわけだが、隣のアウローラも複雑な表情を隠し切れておらず、さらに向こうのイザベラに至ってはシエル以上の憤怒ふんぬをたぎらせているのが嫌でもわかる。

 むしろ、あっちに釘を刺すべきかと迷いかけるが、もう一つの違和感に気づく。

「カルロはいねーのか?」

「そう言えば、あれから見ないんだよね……」

 本格的に動きに出れば、もう自分たちの前に姿を見せないことは予想がついたことだ。

 これで、魔降術なしで戦わなければならない可能性が上がった。

 確実に自分たちをほうむるためにじわじわと包囲網ほういもうをせばめて来ているようだ。

「みんなもう耳にしてると思うけど、怪物騒ぎは先生たちでなんとかしますから、寮生に関しても今回は自宅に帰ってもらいます」

 アンジェラの態度とマクシミリアンの一件が記憶に残っているクラスの面々もこれが冗談でないことは察しているようだ。

 一刻も早く生徒を帰さなくてはならないため、授業もなくホームルームだけで終わると言うことだったのだが……。

「ディーノさんどうしました?」

 自宅住まいの生徒が帰っていくのを、教室の窓から見下ろしているディーノにアウローラが声をかけてくる。

「……この状況、あの野郎と戦った時に似てる気がする」

 そして、ディーノの不安は的中する事になった。

 自宅住まいの生徒が校門から外へ出ることができずに戻って来たのだ。

「またこのパターンなの!!」

 シエルの叫びは、ディーノたちだけでなく学園の全生徒の心情さえも代弁していたことだろう……。

 結局、また学園の行動と寮に立てこもらざるを得なくなってしまった。

 しかし、違うこともある。

「行くぞ」

 どさくさに紛れて、ディーノたちは学園を抜け出して旧校舎の部室に集まっていた。

「でも、おかしいの。学園長が通達を出したはずなのに、それが誰にも伝わってないみたいで」

 一緒に来ていたアンジェラが、不審な顔をしていた。

 本当は翌日の土曜に学園長が休校の知らせを送ったと言うのに、なぜか生徒は全員登校して来てしまい、結局臨時にホームルームを開いたと言うことだ。

「大量の人間を使った何かをおっぱじめようってことじゃねーのか?」

「想像したくないですわね」

「で、どこを探してみる? 頭数だけはあるが、くまなく行くのか?」

 休日中は寝たきりだったディーノが方針を切り出す。

「うん、開かずの教室を当たってみようかなって」

 そして、下の階に六人が集まってみる。

「ところで、ディーノくん。その剣カード化してないの?」

「何が来るかわからなかったからな。それに開かないならぶっ壊すって選択肢もあるだろ」

「ちょっと待って、この旧校舎は木造だから、ちょっと試して見たいんだ」

 フリオが全員の前に出て精神を集中させる。

 ドリアルデは植物の力を司る幻獣だから、試しに壁や床に干渉できないかと言うことだった。

『よーし、やっちゃうよー!』

 緑色のマナが集まって行く。

 すると、床から新たな芽が顔を出して次第に広がっていき、壁の隙間に入り込ませていけばと思ったのだが……。

 突然フリオのマナが弾き飛ばされ、芽そのものが消えてしまった。

「そもそも、鍵ってなんだったのかな? 合鍵作れなかったの?」

「術式と複雑な機構を合わせてあったから鍵がなくなると力づくでも開けられないのよ」

「力技で破壊するのは無理なら……シュレちゃん!」

『あー、そろそろ来るかと思ったよ。この障壁ならなんとかなるかもだけど、無傷ってわけにも行かなそうだね』

 突然現れたシュレントがマナを集中し始めた。

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