暗闇に迷う心
ディーノはほぼ丸二日間眠り続け、目を覚ましたのは日曜日の夕方ごろだった。
目を覚ました時、周りにはカルロを除く七不思議研究会の面々と、担任のアンジェラにオルキデーア学園長となかなかの大所帯だった。
「俺は確か……なんでアンジェラと学園長までいる?」
「せめて先生と呼ぶ! 大丈夫、話は全部聞いてるから」
起きて早々の態度を指摘しながらも、アンジェラはディーノが寝ている間に起きたことを説明した。
「初等部の子たちは、怪物は白いのと黒いのが二匹いるって言ってたけど……」
「アンジェラ先生それは……」
「ああ、二匹いたのは間違いない」
アウローラが止めに入ろうとしたところで、ディーノが横から言葉をかぶせた。
ディーノ本人が寝込んでいる状態で、あれこれと
「でも、白い方は誰も襲ってなんかいません。黒い方、バレフォルと名乗ったディロワールを追うのが先決です」
だが、アウローラも食い下がって、会話の主導権を握ろうとする。
「そのあたりの議論は捕らえてからでもよかろう」
「だっ、だよねだよねー♪ 学園長先生話わかるー♪ もういっそのことバレフォルとかもドカーンってやっつけるすごい魔術とかも」
シエルが話をはぐらかそうと必死になって、オルキデーアの話題に乗っかっていた。
「そんなものはない。と言うよりも
敵の正体を明らかにした上で、その対処のための大義名分が必要になってくると言うわけだ。
「なんか納得いかなーい」
不満げな顔をあらわにしながらぶーぶーとシエルは文句を言うが、ただの平民の女子が何を言おうとも無駄な抵抗でしかなかった。
「魔術士ってのはどいつもこいつも凶器を隠し持って歩いてるようなもんだ。街の外よりか平和だよここは」
皮肉混じりなディーノのツッコミが保健室を複雑な空気にしてしまう。
「まぁ、お主らが動きやすいよう、可能な限りの便宜ははかるつもりじゃ」
「ただ、さらわれた子たちの捜索と救出には先生も力を貸すわ」
ディーノは傷が治り
その日の夜になって、ディーノは寮の裏手で寝込んでいた分なまってしまった体の調子を戻そうと、バスタードソードを素振りしていた時、ある違和感に気づく。
「なんで、あいつの声が聞こえないんだ?」
日課にしている五〇〇回の素振りを繰り返した後、地面に座り込んでマナを制御するための瞑想を初めて気がついた。
いつもならうるさいほどに説教や茶々を入れてくる、内なる竜の声が聞こえてこない。
そしていつもだったら集中すれば鮮やかな光となって視界に現れるマナの流れさえも分からず、目を開けても閉じても真っ暗な世界だけが広がっていた。
精神を集中し、一筋の稲妻を頭の中で思い描く。
だが、自分の体の中になにもめぐっては来なかった……。
(おい、ヴォルゴーレ……冗談にしちゃ笑えねぇぞ)
心の中へと向かって言葉をかけても、答えは帰ってこない。
それが導き出すたった一つの結論を、ディーノは信じがたくても受け入れるしかなかった。
「魔術が、使えなくなってる」
どれだけイメージを描いても、マナを感じることもできずに稲妻が落ちてこない。
これまで
アウローラとイザベラが、食われかけた意識を引き上げてくれたが、あの戦いを機に失われた力は、戻ってきていない。
ならばどうする?
それでも、敵は待ってはくれない。
幸い、実技の授業はもうないどころか、休校の可能性もあるから、このまま悟られないように振舞うしかないだろう。
魔降術がなかったとしても、まだ剣を振るうことはできる。
バレフォル、もといカルロを倒すことはアウローラたちにさせたくはない。
ことが始まる前から、カルロは自分が倒すと決めていたことだ。
そして、敵の目的はわからないが、ソフィアとレオーネも助け出して……。
『こないで!』
『近寄るなバケモノ!』
あの言葉が、ディーノの頭をよぎり、剣をふるう手が止まった。
「ーーーーっ! おおおおおっ!!」
周りの迷惑など頭から消えたような大声を張り上げて、ディーノはさらに激しく剣を振るった。
あんな目を向けられることは慣れていたはずなのに、あの二人からというだけでこんなにも大きく揺さぶられてしまう。
「俺は……俺がやるんだ。泣き言なんて、言ってられない」
ディーノは体を流れる汗も拭かずに、剣を振り続け、倒れるまで体力を消耗しなければ、満足に寝付くこともできないでいた……。
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