戦いを前に
「ん……ここは?」
アウローラとイザベラが保健室で再び目覚めた時、すでに日は暮れていた。
「ようやくお目覚めのようじゃの」
そしてすぐそばには、オルキデーア学園長の姿もある。
「学園長先生。ディーノさんはどうなりましたか?」
オルキデーアは無言で視線を送った先には、未だベッドで寝息を立てているディーノの姿があった。
「あのクモは倒したのに、わたくしたち失敗してしまいましたの?」
イザベラは最も恐れていることを口に出してしまう。
そもそもこれは正しい解法ではなく、失敗する可能性もあったのだ。
「いや、
その答えに二人ともがホッと胸をなでおろした。
「ともあれ、こやつは一晩動かさずにおいた方が良いじゃろうな。あとは
オルキデーアの言うように、ここから先は任せた方がいいのだろう。
しかし、アウローラは本当にこれでいいのか考えを巡らせる。
このまま、真実を隠し通して自分たちだけでことが解決できるのか?
「学園長先生。戻る前にお話ししたいことがあるんです」
アウローラが続けようとしたその時だった。
『それならオイラも混ぜてもらおうかな』
ベッドの脇に突然、アウローラとイザベラのよく知る灰色の猫が姿を見せる。
「シュレちゃん!? 今までどこに行ってましたの? こっちは大変なことが起きていると言うのに!」
今まで自分たちにも行く先を告げずにいた猫の幻獣に、イザベラは怒りまじりの声をあげた。
『言いたいことはわかるよ。こっちだってそのために色々探りを入れてたんだからね。それはそうと、シャルロッテさんお久しぶり』
「ふむ、ヴィオレの使いか、顔を合わせるのは七年ぶりくらいかのう?」
シュレントとオルキデーアはお互いの呼び方からして旧知の仲であるようだった。
「して、ヴィオレはどうしておる?」
『ヴィーネジアの方で動きがあったらしいから、そっちに行ってる。それで代わりにオイラが来たのさ』
シュレントが話したのは北部地方にある水上都市の名だ。
「例の黒い宝石じゃな?」
『ああ、ディロワールは何もこの学園にだけ出没してるわけじゃないんだ』
シュレントの言葉から、アウローラの脳裏には最悪の事態が思い浮かんだ。
もしこのままディロワールが暗躍を続ければ、学園どころかこの国が存亡の危機に直面することになる。
「アウローラさん。今はシュレちゃんたちの話を聞きましょう。一人で思い悩むことはないですわ。あなたがどんな立場にいようとも」
イザベラの言葉にもアウローラはドキッとさせられる。
間違いなく、イザベラは自分が重大な秘密を隠してこの学園に通っていることを察知していた。
しかし、それは明かしてはならないことであり、目の前のオルキデーアと教師陣以外にも事情を知る人間では、あのマクシミリアンですらも徹底していた。
「まず単刀直入に聞くが、こやつらとお主は何と戦っておる?」
アウローラは自分の周りで起きた出来事を絡めながら、ディロワールについて自分の知っている限りのことを話した。
「人間の弱みと欲望につけこんでくる怪物か……まさか儂の足元でそんなものが横行しておるとはのう。不覚じゃ」
なるべく平静を装っているように見えるオルキデーアだったが、その目の奥底には見る者が震えが走るほどの怒りが灯っていた。
『そして、奴らは今回さらに大きく動いた。ディーノを狙ったのはヴィオレの弟子だったからだね。ヴィオレは学園にいる時からディロワールの存在に勘づいてた。でも致命的な重傷を負ったから森に隠れ住んだのさ』
そして、時を経て自分たちを排除するために弟子を送り込んで来たと、敵は考えたのだろう。
裏を返せば、魔降術の存在自体を脅威として警戒していることがわかる。
『もっとも、ヴィオレもそれは本意じゃなくて、傷さえ癒えれば自分でケリをつけるはずだったんだけど』
「ディーノが森へ迷い込んだからですの?」
『そうだね。ディーノ本人は気づいてないけど、あの日森にきたのは偶然じゃない。ヴォルゴーレが意識に働きかけてディーノを導いたんだ』
同じ幻獣だからこそ、その思惑には気づくことができたのだろう。あるいはヴィオレ自身もそれはわかっていたのかもしれない。
『とにかく、今はあのバレフォルを倒して正体を暴くことだね。それができれば、芋づる式に真実が明らかになるはずさ』
「シュレントさんは、空間を操れるみたいですけど、それではダメだったのですか?」
アウローラが素朴な疑問を口にする。
『それができればよかったんだけどね。オイラの力にも限界はあって干渉できない場所も存在するのさ』
つまり、これからの戦いには事情を知った全員で臨む必要があるのだとアウローラは察した。
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