記憶の世界へ −6−
その長大な牙はケーキに
体への
頭をブルブルとふって口についた
スパーグレにとって、ディーノは他のどんな
体の
それは、ディーノがこれまで感じて来た恐怖とはまるで種類が違う。
人間は感情とともに理性を持っており、あくまで人間の中で定められたルールの範囲でしか行動して来ない。
両親を殺した連中にしても、それは
目の前にいるスパーグレは全くの逆と言っていい。
あるものは食うか食われるか、野生の本能による、人間とは全く逆のルールの名は
ガクガクと歯を鳴らし、気づかぬうちに目から涙が落ちて、後ずさりしたかかとが木の根に引っかかり、尻もちをついた。
だが、それが動くことを忘れた体に信号を送るきっかけとなる。
『うわああああああああっ!!』
ディーノは体を起こし、一目散に逃げた。
逃げるルートなど頭に入っているはずもなく、ただひたすら木々の間をすり抜けるように走る。
追ってくるスパーグレはか細い木なら
パニックを起こした
ついに、ディーノは崖を背に追い詰められてしまった。
スパーグレが飛びかかってディーノの体を前足で弾き飛ばす。
子供の体格では受けることもよけることも
スパーグレが一気に
もてあそぶように転がして、弱らせてからゆっくりと食えばいい。
バスタードソードを
ここで終わってしまうのか?
視界はもやがかかったようにゆがみ、死が
あきらめかけたその時、かわいた金属が落ちる小さな音が足元から聞こえて来た。
音を立てたのは、金色の指輪。
首から下げていたチェーンが衝撃で切れてしまったらしい。
ディーノの頭から、絶体絶命の状況も、スパーグレの存在も次第に消えて行き、たった一つの大切な記憶がよみがえっていく。
『アーちゃん……』
あれ以来、思い返すことは目に見えて
思い出の中に残っていたひとかけらの光が、死の恐怖に支配されたディーノの心を照らしていく。
ディーノは指輪を
『俺は……まだ死ねない!』
希望すら失ったと思って、当てもなく逃げてしまった先にいたのはこの化け物だった。
たとえ確率が低くても、どこまで逃げようとも、その先に道はない。
なら、とるべき道はたった一つだった。
スパーグレがまだ油断しているこの一瞬、一撃に全てをかける。
今までやって来た稲妻を集めた剣に、それ以上自分ができる限界までため込むようにイメージする。
ふと、その頭の中に浮かんだのは、白と紫の鎧に包まれたような一匹の竜だった。
古来より、災いと力の
そして振るうのは肩身の剣、そこからつながるのは、父エンツォの姿。
稲妻と竜と騎士、三つのイメージが今ディーノの中で一つとなる。
ディーノは大きく剣を振りかぶって、スパーグレに向かって踏み込んだ。
そして、スパーグレもそれにただならぬものを感じたのか、それまでの油断が消えて大顎を開いて突進してくる。
しくじればその牙の
だが、そのイメージをディーノは強引にかき消し、スパーグレを斬り倒すことだけを考える。
バスタードソードに稲妻がまとわれると同時に、ディーノの腕が同じ紫色の
そしてそれは、一瞬で全身を白銀の鎧へと変えた。
決死の一撃がスパーグレの牙を砕き、その口からすり抜けるようにその体を真っ二つに斬り裂いていた……。
『ほう、ここまでやるとはな』
頭の中でまたあの声が響く、そして剣を握った自分の手を見て、ディーノは何が何だかわからなくなる。
バスタードソードの刀身に映り込んだ自分の姿は、さらにその理解を追いつかなくさせそうなものだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます