失われる稲妻
ディーノが
「いったいディーノになにをしたんですの!!」
『ちょっとした
「だったら! この場で
イザベラは
だがバレフォルは動じずに指を鳴らし、小さな火花を飛ばした。
火花が鞭に
『「
アウローラが、ブリュンヒルデから水の魔術を発動させ、無数の氷の矢が大蛇の炎を消し飛ばす。
「イザベラさんは、風を使わずにサポートをお願いします」
風のマナでは火のマナの力をかえって強めてしまい、相性が悪すぎる。
アウローラがイザベラより前に出て
『いやぁ、
「あなたは、なにが目的でこんなことを
だが、アウローラの
「アウローラさん。問答など無用ですわ! まともに答えるわけないですもの!」
イザベラの言葉に後押しされて、アウローラはバレフォルへ一気につめ寄り槍の突きを見舞う。
その突きをバレフォルは左へのサイドステップで
相手がかわすのを布石に入れた上での二段攻撃をバレフォルは高く跳んでかわす。
『「
だが、さらにその先へアウローラが飛行の魔術を発動させて先回りし、槍の一撃が空を
バレフォルはバランスを崩し、かろうじて着地するものの、その
空中からの
その正体は、一匹のソルンブラだった。
バレフォルはあの一瞬で、呼び出す場所をアウローラの上に設定して、ソルンブラを落下させたのだ。
自分を
『どうやら、彼に受けたダメージが想像以上のようだ。
「きゃあぁっ!」
「この、はなせ!」
その声と同時に二人の
目の前のバレフォルに気を取られていたアウローラとイザベラは、一部のソルンブラが影を伝ってソフィアとレオーネを捕らえたことに気づけないでいた。
タイミングを計っていたように、バレフォルは
おさまったその時、すでにバレフォルはソルンブラともども姿を消していた。
「アウローラさん、イザベラさん。あなたたちは、あの怪物を知っているの? ソフィアさんとレオーネ君はどこへ行ってしまったの!?」
初等部の教師がアウローラたちに詰め寄る。
目の前で受け持った生徒が、
「……すみません。わたしたちにもはっきりとしたことは言えません」
アウローラが
「ところで、ディーノ君とカルロ君はどうしてしまったの? 戦っている途中に突然消えてしまったみたい」
教師がそうつぶやいたと同時に、アウローラの顔色が変わった。
しかし、子供たちを
「この子たちはわたくしに任せなさい! それに顔に書いてますわよ? 『ディーノさんが心配で今すぐ探しに行きたい』って」
「え、えええっ! で、でもイザベラさんが一人に……」
イザベラに
「そんな顔してる人に、心ここにあらずな対応をされても邪魔なだけですわ! シエルさんもフリオもシュレちゃんもいるんですから、さっさと行って来なさい!」
「……イザベラさん。ありがとうございます」
「お礼なんていりませんわ。かすめ取るようなマネは嫌いですの!」
背中を押されたアウローラは、ディーノが跳び去った方向へと振り向かずに走り出した。
学生寮からほど近い林の中に入る。
マナの探知魔術でもあればたやすいが、あれは専用の
ディーノは以前森で迷った時やってのけたが、体の中に宝石を埋め込んだ
今の自分にできることは
「これは……」
進んでいくうちにアウローラは、不自然に折れた木の枝を見つけ、見上げれば今さっきその枝が折れたような木を見つけた。
さらに、地面に白い砂のようなものが
憶測だが、普段のディーノならこんなあからさまな痕跡を残しておくとは思えない。
つまり、それだけ受けたダメージが大きく、満身創痍の状態ということだ。
白い砂を追って茂みをかき分けた先に、アウローラは探し人の影を見つけた。
ディーノは木の幹を背にしてうずくまり、半分はあの幻獣の鎧が残っている。
鎧の部分がボロボロに
「く、来るなっ!」
近づこうとしたアウローラを、ディーノは必死な声を張り上げて
「見るな……見るんじゃねぇっ!!」
アウローラはそのまま近づいて、震えるディーノの手を握りしめる。
「落ち着いてくださいディーノさん。わたしです。アウローラです」
ディーノは一瞬ありえないものを見たような目でアウローラを見たが、その手に伝わる温度で現実だと認識する。
「悪りぃ……取り乱した」
そう取り繕うディーノだったが、手の震えは未だ止まらず、鎧の体は最後の一片までも砂に成り果てた。
だが、アウローラはどこかで違和感を覚えた。
今までディーノが元の姿に戻ったときは、鎧がマナの
これは今までのものとは明らかに違う。
「とにかく、傷を治しましょう。保健室の方へ……っ!?」
アウローラはとても信じられなかった。
ディーノはアウローラの体を引き寄せ、抱きしめる。
震えているだけじゃない、ディーノの体はとても冷たく感じていた。
「俺としたことが、すっかり忘れてた……。あれが普通の反応なんだよ」
客観的に見てしまえば、あのディーノの姿は幻獣が混ざり合った姿に、鎧のような
「あんな姿見せられりゃ、誰だって怖いに決まってる」
むしろ、
アウローラもこんなディーノは初めて見る。
いつものぶっきらぼうで
「大丈夫……、大丈夫です。わたしたちがいます」
今のディーノを支えることができるのは、自分たちだけだとアウローラはディーノだけでなく自分自身にも言い聞かせるように言葉を発する。
「うーん、こりゃお邪魔だったかなぁ?」
世界にふたりぼっちとなったと錯覚する時間は、突然の
「か、カカカカルロさん。こ、これはですね」
真っ赤にあるアウローラだったが、カルロの登場は彼女が思っているのとは別の方向で作用し始める。
「てめぇ……なにしに来た?」
今までの
その顔は覚えがある。
ディーノはこの学園に来たばかりの頃、周りへの不信感と
「落ち着けって。今のディーノ、自分が思ってるよりも
カルロの言葉は火に油をそそぐものでしかなかった。
ディーノは拳を握りこんで、ジリジリとおぼつかない足取りで近づく。
「いいよ、思いっきりカミナリ飛ばしてみな」
「カルロさん!」
ディーノのただならぬ殺気と、それに対して
「僕が一番殴りやすいだろ?」
「まったくだっ!」
ディーノは
いつものようにディーノは稲妻を呼び起こすイメージを頭の中に
だが、発されたマナは
「雷が……出ない? どうして?」
カルロはその様に
「やっぱりね。魔降術が発動しなくなってる」
一転して冷静なカルロの言葉に、ディーノもアウローラも驚きを隠せない。
その時だった……。
「ぐっ……があぁぁっ!!」
ディーノの頭に突然の激痛が走ったのは……。
「ディーノさん!」
アウローラは反射的にディーノの手をつかみ、アルマで光の回復魔術を使おうとするが、それをカルロが後ろから抱きつくようにして止める。
「うかつに近づいちゃダメだ!」
「でも!」
「正体がわからない術で、アウローラちゃんまで危険な目にあうのをディーノは望むかい?」
ディーノは二人、
(こ、こいつはまさか……)
モヤで意識が遠のいていく中で、ディーノは仮説を立てる。
この感覚はつい先ほどバレフォルから食らった攻撃そのものだ。
だが、これは肉体を直接攻撃する
消えかかった視界に突然現れたのは、突き抜けるように
それはディーノにとって二度と足を踏み入れたくない場所だった。
街の中心からは少し離れた場所にある小さな家で待っていたのは……。
(また、父さんと、母さん)
それを認識した瞬間に、ディーノはまた意識がなくなっていった。
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