ラブラブ大作戦始動
「そんなこんなで、改めまして作戦会議~♪」
場所を新校舎の屋上へと移し、テレーザを加えた四人はいかにして、ディーノとイザベラを接近させるかを、本人をほぼ置き去りにして話し始めていた。
イザベラ自身も、ただ退屈しのぎのため利用されているに過ぎないのではないか、という疑心が消えずにいた……。
「急に信じられないのは、私たちも良くわかっています。でも、この先ずっと一人で思い悩み続けていたいのですか?」
その一言に、イザベラは胸を突き刺された気がした。
口調こそ、変わらずおっとりしたものだったが、まっすぐにきっちりとその目を見つめてくる。
決して遊び半分で付き合っているわけではないと主張するかのようだった。
今、彼女たちをはねのけてしまうのは簡単でも、自分一人で妙案が浮かぶものだろうか。
結局、この悶々とした状態を繰り返しながら時間だけが過ぎて行くだろうし、この先全く接触せずに学園生活を送れるわけでもないのは頭ではわかっていた。
「……勘違いしないでくださいな。あくまでわたくしの平穏のため、気を許すわけじゃありません。それと先輩、新聞に載せたらどうなるかわかってますわね?」
「あはは、もちろん♪ せっかくの信頼を自分から折ったりはしないってば♪」
そう返してくるテレーザは、どちらかといえば距離をおいた目線で、こちらを観察しているようだった。
「まずは、現状をまとめていきましょう。イザベラさんが彼を意識したのはいつ頃からかしら?」
ミネルバが先陣を切って質問する。
「こ、この間の期末試験の時に……、二人きりになって……」
『うんうん』
「そのだだ抱き寄せられて……」
『おおおっ!!』
「ってあくまでも敵から身を隠すためですわ!!」
イザベラの説明に合わせて、三人は好奇心をむき出しにした表情で、食いつき気味に寄ってくる。
女子の間で恋愛話に花を咲かせるのは別段珍しいことでもないが、やはり浮いた話の類がなかったイザベラから聞くとは思っていなかった故のこともあるだろう。
ふと思い返すが、この三人が闘技祭の直後に囁かれた噂の発信源だったのではないのか?
「ふむふむ、つまりは”吊り橋効果”だね……」
ファリンの説明に三人が『?』マークを思い浮かべた顔を返す。
「危険な状況に対して緊張しているのを、その時近くにいたディーノ君に対してドキドキしていると錯覚したってこと」
人間の心理というものは、ふとした事で混乱に陥ることは多数あり、イザベラのケースもその一種であると解説を加えた。
「でもさー、なんでもかんでも一言で簡単に片付けられるんなら、誰も恋なんてしないんじゃないの?」
ファリンの挙げた根拠に対して、どこまで理解しているかはわからないが、ヒルダはそれに懐疑的な姿勢を示す。
「他にはなんかないの? なんかこう、カッコいいなぁって思ったこととか」
「そ、そうですわね……。昔会った事のある騎士の方を思い出したと言いますか、間近で戦っているのを見たのは初めてでした」
思い出の中の住人に過ぎないが、どこかディーノには近しいものを感じていた。
見た限りでは似ても似つかないはずだというのに、不思議と目が離せなかったのはよく覚えていた。
「じゃあ、最初の作戦はこんな感じでどうでしょう?」
そこまでの情報から、ミネルバは何かを思いついたようだ。
「つまり、イザベラさんは期末試験でディーノ君にはお世話になりました」
四人は相槌を打ちながら、話に耳を傾ける。
「助けていただいたお礼として、ディーノ君に何かお返しをして差し上げてはいかがかしら?」
「お返し?」
いまいち要領を得ないのか、イザベラはオウム返しに聞き返す。
「編入してきたときから思っていましたが、彼は貴族にあまりいい印象もないし、イザベラさんにもせいぜいクラスメイトがいいところでしょう?」
ミネルバは、今までの事柄からディーノに関する情報を拾い集める。
「だから、貴族への悪印象を払拭しつつ、イザベラさんの印象をアップさせることが先決だと思いますの。そしてなおかつ貴族でしかできないことをアピールしていけばいいかと」
確かに、恨みはないと言っていたが、友達どころかそれ以前の問題である。
まずは普通に話しかけられるようにならなくては、その先も何もない。
結果を焦っていきなり踏み込むよりも、まずは崩れ落ちてしまわない地盤固めから始めるべきというわけだ。
「たとえば、お礼を兼ねて高級のレストランに連れて行くとか、食は万人共通の文化とも言えますわ」
「まずは胃袋から満足させていくわけだね!」
ヒルダが真っ先に反応する。
彼女は運動部に所属しているくらいだから、この手の話題ならば乗りやすいのだろう、というより自分が食べたいと言わんばかりだ。
「ちょっと待って、その計画には穴がある」
盛り上がりを見せた二人に対して、ファリンは静かに口を挟んだ。
「わたしたち学生だよ? 学生だけで予約が取れるようなレストランがあると思う?」
しかも、そう言った店は会員制な上に、服装規定もあることだろう。
自分たちはともかく、ディーノが正装の類を所持しているとは到底思えなかった。
「そ、それは盲点でしたわ……」
ミネルバはズーンと言う重々しい音が聞こえてきそうな具合に、両手をついてうなだれる。
「もっと簡単でいいんじゃないの? 料理だけじゃないじゃん」
「でしたら、高級のスイーツ巡りに切り替えでどうでしょう?」
即座に立ち直ったミネルバが修正案を出して、そこまで聞いたイザベラは想像を張り巡らす。
『こ、こちらなんかもいかが?』
アンティークによって飾られた静かな雰囲気の中、向かい合わせでテーブルの前にはディーノが目にしたこともないであろうスイーツたちが出迎えてくれる。
『あぁ美味いよ。本当に金払わなくてよかったのか?』
懐を心配するディーノに向かって、イザベラは笑顔で返す。
『そんなこと気になさらなくて大丈夫ですわ。また二人で食べに来たいだけ、それとも貴族となんて一緒にいたくありませんか?』
『誰も……んなことは言ってねぇだろ』
そして、少しずつ歩み寄った二人は……。
「ま、まだダメですわ! いくらなんでもそれは気が早すぎると言うもので!!」
顔を真っ赤にしながら、イザベラは転げ回りそうな勢いで何やらはしゃいでいる。
「い、意外と想像力豊かね……」
「気が早いのはあんただよ……まだ実行する前なのに……」
ヒルダとファリンが呆れ顔でその有様を見届けていた……。
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