学園一残念な同盟 −2−

 一体、何がどうなっている?

 イザベラは声を大にして叫びたい気持ちでいっぱいだ。

 四人でテーブルを囲って、ともに食事をしているまではまだいい。

「問題は、ディーノ君にどうイザベラさんを意識していただくかですね」

「それが一番難しいんじゃない? 浮気とかするタイプじゃないでしょあれは」

「けど、イザベラさんが聞いた限り、婚約は確定じゃない。つまり付け入る隙は十分にある」

 いくらアウローラに諭されたからと言って、ついこの間まで無視を決め込んでいたのに、この態度の変わりよう、手のひらの返しようは疑うなと言う方が無理だ。

 イザベラには伯爵家の息女と言う肩書きはあるものの、成功する確率など低く原因として自分たちが切り捨てられる想像などしていないのだろうか?

 アウローラとディーノの仲を後押しすると言うのならばまだ分かるが、自分についてメリットがあるとは到底思えない。

 貴族間の友情など、所詮は家柄と身分による利益を将来的に得られるかどうか、少なくとも自分がマクシミリアンと友人関係を築いたのは、人格はともかく公爵家の権力と財力を得られるだけのツテが欲しかったから以外の何者でもなかった。

 恋愛も友情も、自分の自由にはできない。

 仮に明日、突然実家が破産でもしようものなら、潮が引くようにいなくなる。

 だと言うのに、なぜこんなに楽しそうに盛り上がっている魂胆がまるで見えてこなくて不気味さすらも感じられた。

 口にしているボロネーゼの味もわからなくなりそうなイザベラに向けて、不意に強い光が放たれる。

「物憂げな表情、いただきましたー♪」

 首から下げた写真機カメラと手に持ったストロボが目を引く、三年生の女子生徒。

 そんな特徴を持ち合わせているのは学園に一人しかいないことはイザベラもよく知っている。

「なんのご用でしょうか? 人を嗅ぎ回るのがお好きな新聞部の先輩?」

「テレーザ・フォリエだって! ご機嫌ナナメだね。ヘヴェリウスのお嬢様は♪」

「食事くらい落ち着いて食べたいものですわ」

 無関心を徹底して再び食事に手をつけるが、これで引き下がるほど新聞部の自称部長は甘くはなかった。

「いやぁ、なにやらスクープの予感がしたからねぇ♪ イルミナーレに巻き起こる恋の嵐、次回のネタはこれで決まりね♪」

 よりにもよって、一番相手にしたくない相手に目をつけられてしまった。

 この女にバレたが最後、有る事無い事大げさな脚色を加えられた上で、学園中の晒し者にされてしまう未来は決まっているようなものだ。

 ただでさえ、わけのわからない事態に発展していると言うのに、頭痛の種ばかりが増えていき、イザベラは不快さを目一杯込めた視線で睨みつける。

「そう、怒りなさんな♪ 私だって許可くらいはとるよ? それに、卒業アルバムなんかも将来的に作るからね。日常的なものも欲しいわけ♪」

「先輩は先に卒業なさってしまうのにですか?」

 ミネルバが投げかけた疑問はもっともだ。

 留年でもしない限り、同学年や上級生ならまだ分かるが、下級生の自分たちを写真に納めることに意味はない。

「これでも部長だからね♪ 後輩にちゃんと残せるものは残すのがポリシーってやつ♪」

「本音は?」

 イザベラは邪険に扱う表情を崩さずに問いを繰り返す。

「面白そうなことやってるから、私も一枚噛ませて欲しいなぁって♪」

「まるでシエルさんですわね……」

 やたらとテンションの高い平民のクラスメイトが、イザベラの脳裏によぎった。

「でも、テレーザ先輩ならあたしたちが知らない情報網とかありそうじゃない?」

「よく言ったショートヘアの後輩ちゃん! もっと私を売り込んでちょうだいな♪」

 あまり深くは考えないのか、気楽な調子でヒルダが提案する。

 この二人もある意味似ているのではないかと。

「大昔に流行った五色の英雄譚……中盤あたりで軋轢を乗り越えて新たな仲間が増えるのはお決まりの展開」

「それだと六色じゃありませんこと?」

 ファリンはまるで、創作の物語を現実に当てはめることを楽しんでいるフシがあった。

 再びストロボの光がイザベラに向けて照射される。

「気になる人ができたからって、眉間のシワまで似せなくていいんじゃないの?」

「だ、誰があの下民と同じ顔をしてますって!」

「わっかりやすいね。てゆーかディーノ君だなんて言ってないし」

「同じ手に二度も引っかかってますわね♪」

 ミネルバが穏やかな笑みで優雅に紅茶を飲み干しながら、その状況を楽しんでいた。

「こう言うのは楽しんだもの勝ちだよ? 改めて作戦会議にしよっか?」

 こうして残念な同盟はとどまることを知らない加速を見せていくのだった……。

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