鋼と黄金 −2−
試合開始の合図とともに両者は構える。
ディーノは愛用のバスタードソードを両手に持ち、刀身の根元を肩に
マクシミリアンは、自身のアルマである
彼のアルマはナックルガードの部分に、
対峙している二人の距離はおよそ十メートル、片や黒ずくめの服に飾り気のない武器、片や白を基調に金と銀の派手な装飾が眩しい。
勝利を確信しきった笑みを浮かべているマクシミリアン、対して表情を崩さないディーノ。
こうしてみると実に対照的だった。
『両者、にらみ合っています。まずは探り合いかー?』
シエルの実況が合図になったのか、マクシミリアンが動いた。
『現れ出でよ、黄金の剣たち』
エペを振るマクシミリアンの周囲に集まるマナが、次第に形を作っていく。
彼のアルマに近い形状をした十本の剣が、宙に浮いた状態で付き従うかのように取り巻いている。
「驚いて声も出ないかい? これこそが僕の魔術 "
声高に自分の魔術を歌い上げるマクシミリアンだったが、観客席もディーノも違う意味で
自分の扱う魔術や戦闘スタイルに、
だが、わざわざ自分の名前を組み込む
『あ、あ~……センスって人それぞれだよね~。それは置いといて、アンジェラ先生。物を作る魔術って、便利すぎない?』
シエルが素朴な疑問をアンジェラにぶつける。
黄金を自由に作り出せるのなら、金貨でも作って一生遊んで暮らせる事だろう。
『そうでもないの。物質精製の魔術は《土》のマナが得意な分野だけど、本物じゃなくて限りなく近いマナでできた
魔術士の力量によるけど必ず時間制限があるし、何より普通の
『というわけでしたー♪ さっすがマナ学の先生だね♪』
『
『生徒の成績バラさないでよー!! ん? でもそれだとアルマだって金属製だよね?』
『興味出てきたなら、シエルさんは今週末に特別授業しよっか?』
『
シエルとアンジェラの掛け合いに、観客席ではどっと笑いが起きた。
だが、ディーノだけは周りがどれだけ騒がしくなろうとも、
真冬の
「妙に落ち着いてるね? それとも悟ったのかい? 己の敗北を!!」
マクシミリアンがエペをディーノに向けて振るう。
作り出された十本の剣は、一斉にディーノへと向かって矢のように真っ直ぐ飛び、彼の敵意を上乗せしたかのごとく襲いかかる。
『マクシミリアンが動いたーっ! ディーノはこの攻撃をどうしのぐ!?』
まくし立てるようなシエルの実況、しかしディーノは
胸元から紫のマナを発し、一拍遅れてディーノの力の根源が
観客たちがそれを
「ふっ……これが格の違いというものさ」
己が絶対的強者であることを
視界が戻る頃には、無様に横たわった下民の姿を見下ろす光景が広がっている確信を持ち、エペをカードに戻そうとしたが……。
「なっ……!?」
その先には、何事もなかったように剣を持ったディーノの姿があった。
『な、なんとーっ!! 金の剣が
ディーノは意にも介さず再び剣を元の位置に構え直し、変わらずマクシミリアンを見すえるその目はこう語っているようだった。
『もっと、撃ってこい』と……。
「くっ……"まぐれ"は二度と起こらないぞ!!」
今度は本数を二倍に増やし、さらに剣だけでなく、貫通力に秀でた"騎兵槍"や、重量と威力を持たせた"戦斧"と、精製する武器にバリエーションを持たせて再度攻撃を試みる。
「行けっ!!」
再びディーノの真正面から武器たちが襲いかかる。
自分の実力が圧倒的に上だと信じきっているマクシミリアンは、ディーノに対しても力でねじ伏せるという思考に支配されている。
それゆえに左右、背後、真上と多方向から攻めて相手を
ディーノは
再度、爆音が響く、今度はよりわかりやすく、観衆の誰の目にも止まるように、マクシミリアンの作り出した黄金の武器たちが、ガラス細工のように砕け散る光景をありありと見せつけた。
「な……なぜだっ!」
信じられない、とマクシミリアンの表情は口に出さずとも語っているのがわかる。
純金の
「これならどうだっ!!」
再び精製された武器たちが、今度はディーノを取り囲むように様々な方向へと
このまま、乱心して無駄撃ちでもしてくれれば、それだけで終わっただろうが、作戦を切り替えるだけの余裕はまだ残していたようだ。
だが、ディーノはあくまでも表情を崩さず再び構え、軸となる右足に力を入れた。
「今度こそ逃げ道はない! 終わりだ!」
前後左右そして上、全方位から攻撃すれば、どこかしらは当たる。
一撃で仕留めることよりも、じわじわと
無数の武器がディーノに直撃するかと思われたその瞬間、右足を踏み切ってディーノは前に出た。
自ら攻撃を受けに行くかと
マクシミリアンは武器の軌道を全てディーノに狙いを定めてある。
対処できるのが一方向だけなら、それ以外からの攻撃は武器同士をぶつけてしまえばいい。
直撃の寸前で移動することで、
『全方向から降り注ぐ武器の雨嵐! だけどディーノはお構いなし!』
マクシミリアンは学園の同学年で飛び抜けていても、
タイミングを
どれだけ武器の数が増えようとも、どんな軌道を描いて攻撃してこようとも、ことごとく打ち落として道を作り前進するディーノの姿は、さながら"
「バカな!? そんなバカな! ありえない、こんなことがあっていいはずがないんだぁぁぁっ!!」
追い詰められたマクシミリアンは、自分を取り囲むように、黄金の盾を精製する。
だが、会場の誰もが分かりきっている。
ディーノは何度目かわからない稲妻を剣に落とし、叩き込まれた一撃にやすやすとその盾が粉砕され、転倒したマクシミリアンをかすめて地面に大穴を開けていた。
『決まったぁ!! 物凄いカミナリ! 物凄い一撃! 戦車の進撃を止められるのは誰もいないのか!』
「……ひっ! ひいぃっ……」
ガクガクと
「ナマクラは、お前の方だったな」
会場中が
マクシミリアンは、己を支えていたものが全てズタズタに成り果てたのか、目を見開いたまま、あんぐりと開けた口は
「勝者、ディーノッ!!」
審判の勝ち名乗りを合図に静寂が一転、大歓声となって会場を揺るがしていたが、その場から去って行くディーノの耳にはただの雑音でしかなかった。
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