鋼と黄金 −1−
闘技祭の当日を迎えた日曜の朝、会場は
どのような仕組みかはわからなかったが、グラウンドのあった場所にゴミひとつ落ちていない
それはさながら、王都の方にあるはるか
『さぁ! 今年も始まりました春の闘技祭! 実況は高等部二年二組のシエルちゃんでお送りしまーすっ! そして、解説はあたしたちのクラスの担任、"
自分の
彼女の魔術は声や音を自在に
本人の明るさも相まって、会場をいい具合にわかせていた。
中央のフィールドには五学年ごとに
客席から遠いからか、その姿はさほど
『そして〜、開会の言葉は学園長先生が送ってくれま〜す。できたら全校集会より手短にお願いしたいで〜す』
シエルが
長い髪は
一見すればただの迷子なのかと錯覚するが、ディーノもヴォルゴーレも彼女から
『ほう、どうやら
(……師匠と同じくらいか?)
『かもしれんな』
あれぐらいの実力者を相手にできるなら、ボロボロにされた
「まったく、失礼なことを……。気を取り直して、学園長のシャルロッテ・オルキデーアじゃ! ここに
シエルからの言葉が応えたのか、学園長と名乗る少女による開会の言葉は手早く済まされて壇上から去った。
『試合の前にルールの説明を行います。
勝敗は選手の
それではこれより、一年生から順番に試合開始していきます。他の出場者たちは一度
解説席にいるアンジェラに
戦いの祭りが今始まった。
一年生の試合が始まり、遠巻きに歓声が聞こえてくる。
ディーノは試合に備えて、自身のバスタードソードを入念に手入れしていた。
他の生徒達が持つアルマのような宝石もなければ、
八年間、師匠ヴィオレと出会う前から共に戦い続けてきた一振りだった。
他にも試合を控えている生徒が何人もいるが、積極的に声をかけてくる者はいない。
試合を前に準備運動をしている者もいれば、目を閉じて動かずに呼吸を
「やあ、熱心なことだね」
かけられた声に対して振り向いた先にいたのは、長い銀髪のクラスメイト、マクシミリアンだった。
「何の用だ?」
「組み合わせは見なかったのかい? 最初の試合は僕と君だ」
貼り付けられたような笑顔、だが瞳の奥に輝きはなく、
ここ一ヶ月間は一方的に
「座学だけでここまで来れたことは、素直に
「何が言いたい?」
「実を言うと、君と当たることが出来て良かったと思っている。この僕が
どうやらマクシミリアンの中で、ディーノの魔術はそう言った認識のようだ。
アルマを持たずに行使される魔術自体が、彼にとっては現実感のない代物だと言うことらしい。
だが、こうして突っかかってくるもう本当の理由は一つしかないと断言できる。
「君のようなペテン師に
やはり、そこに行き着くかと内心でディーノは
この男は、自分が世界の頂点であり、自分以外が自分の意のままに動くことが当然であると信じ切っている。
高い地位にいればプライドや自信というものは下位の者を
「君がどんな手を使って、アウローラを
「あいつが誰といようが、あいつ自身が決めることだ」
「
言いたいことだけを言って、マクシミリアンはディーノから放れた。
どうやら、アウローラと
『彼女の
(俺が女でも近づきたくない。顔以外は最悪だ)
いつもはうっとうしい頭の中の相棒と珍しく意見が合う。
だが、ディーノにとってはそれ以上に
「ナマクラか……」
日ごろから命を預ける相棒を、たった一つだけ残った一番大切な
「味わってもらおうじゃねぇか」
手入れを終えたバスタードソードを
やがて一時間ほど経って、審判を
『ここからは、二年生の一回戦です! 注目の第一戦目はこの二人!』
景気のいいシエルの実況とともに、両端の入り口から、ディーノとマクシミリアンが面と向かうように入場する。
『まずは前年度も出場経験ありで優勝候補の一角。マクシミリアン・ロックス・ブルーム! ちょっと
マクシミリアンは周囲の歓声に応えるように大手を振って入場する。
その姿は戦場から戻り
『そして、もう一方は先月ここへやってきた転校生ディーノ! アルマも使わない謎の雷と剣が黄金の武器を撃ち落とすのかっ!』
シエルの紹介ともに入場していくと、歓声は次第に
クラスメイトだけでなく他の学年や年少の生徒に保護者、普段よりもはるかに多い人数が気にしているのは、観客席の中に一人として同じ者のいない容姿だろう。
闇夜のごとし黒髪に同じ色の
だが、どんな視線を向けられようとも自分のやることは一つ、試合の合図を待ち集中力を高めようとしたその時だった。
「おにいさーん! がんばれー!!」
静まり返った会場に響いた、あまりにも場違いな子供の声。
目線を動かした先には、見覚えのある女の子がディーノに向けて手を振っていた。
ディーノ達と違う白の制服、ここにいるということは、この学園の生徒であることに違いない。
『あーっと! 意外すぎるほどのかわいい声援が飛んできたーっ!!』
シエルがそれを魔術で拡大した声で、大げさに盛り上げると、便乗したのかちょっとした笑い声とともにささやかな歓声がやってくる。
『覚えているか? あの船でお前が助けた子だ』
(たった今忘れたよ……)
集中しかけていたはずが、肩の力どころか体の力が抜けそうだ。
ディーノの初戦は、自身の想像とは大きくかけ離れたイロモノの空気をまとうこととなった。
「おほん! 両者、定位置へ」
審判が
「それでは……始めっ!!」
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