闘技祭の始まり
三月の下旬に学期の節目を迎えた事で学園全体でテストが行われた。
成績次第では、進級できず同じ学年にとどまると聞かされたことで、
そして、四月始めの週のホームルームが始まる。
アンジェラが
妙にそわそわして、緊張し浮き足立っているような。
「さーてみんな。今日は待ちに待ったテストの結果が発表されるよ?」
『えぇ~っ!』
明るい調子で言うアンジェラに対して、クラスの面々は不満げな声をあげる。
「そうぼやかないの。今年もやるんだよ? 春の"
担任の口から聞きなれない言葉が出て来た。
言葉から察するに、戦うことに関した何かなんだろうか?
「何があるんだ先生?」
ディーノは手を挙げて質問する。
「そっか、ディーノ君は初めてね。闘技祭って言うのは、学年ごとに今学期のテストと普段の授業で
形式は男女別で八人ずつのトーナメント方式であり、勝ち進めば内申に特別な評価と
「選ばれた人は全力で戦って、選ばれなかった人たちは
すなわち、生徒の力量を測るだけでなく、それを見せることによって普段の授業や訓練に対する意欲を高めるための
「ちなみに、初等部や中等部の子も見にくるし、
そこまで言ってから、アンジェラはディーノに対して察したような表情を送る。
「今明らかに、めんどくさいって思ったでしょ? 残念だけど他人事じゃないのよねこれが」
勝ち
「このクラスからは、なんと五人が選ばれました! まず、アウローラさん」
「は、はいっ!」
アウローラはかしこまって起立し、一礼する。
「それからマクシミリアン君」
「当然の結果です」
特に気にした様子もなく、すました返事をマクシミリアンは返した。
「三人目は、イザベラさん」
「ふふふ……証明して差し上げますわ! 誰が本当の一番かを!」
当のアウローラは、それを苦笑いで返している。
(めんどくさい奴は一人じゃなかったか)
その光景を見て、ディーノは他人事のように心の中でつぶやいていた。
「四人目は、カルロ君」
「おっ! たまには女の子にかっこいいとこ見せますか♪」
「調子に乗んないのバカルロ!!」
シエルと
「最後に、ディーノ君」
教室の空気が一気に変わる。
謎の魔術を使う今年からやって来た編入生が、大きな催しに選ばれたのなら注目を浴びないほうが不自然と言うものだ。
「と言うわけで、今度の日曜は五人とも頑張ってね!」
「めんどくせぇ……」
午前の授業を終えたディーノは、屋上で一人サンドイッチを
ここ一ヶ月、ディーノの中で二つの大きな悩みがひしめきあっていた。
『なかなか楽しそうな催しではないか? 強い者に出会うチャンスかもしれんぞ?』
ヴォルゴーレの言うこともわかるが、ここ一ヶ月でそう言った相手に出会えるとしたら、それは上の学年にいるとしか思えない。
ならば見ることはできても、直接戦うことはかなわないだろう。
むろん、第三者の視点で
せめて学年による制限がなければとも思うが、それができないのは学園の事情があるのだろう。
「よーっす。一人
聞き
カルロが同じように紙袋に詰めたサンドイッチを持って、ディーノの
「お前には『関係ねぇだろ』」
そして、ニカッと笑って、自分の食事に手をつけ始めた。
この男は相手に
「ディーノはあれだねぇ。なんかあると、一人で飯食ってるよな」
「もともと、誰かと食う
ディーノには師からの課題を
しかし、いくら考えても、この課題の
師に
なら、師が教えられないような、魔術に関する学問があるかと言われるとそれも違う。
だが、ただ卒業するだけが課題だとは思えなくなって来たのだ。
卒業というのは建前で、師の思惑は別にあり、それを達成するための条件をいくら考えても答えを見出すことができないのが、一つ目の悩みの正体だ。
そしてそれがわからないまま、日々を
「なにを
なぜこうも簡単に見抜かれてしまうのか、カルロからの
「いや、こーんな顔しててもわかりやすいよ?」
またも眉間にシワをよせてマネをしながらカルロは答える。
「自分が思ってるほど、ディーノはポーカーフェイスできてない。ただ単に
『当たってるではないか』
(黙れ)
頭の中でヴォルゴーレまでが
「まぁそれはおいとくよ。目的ってヤツは、一人じゃないと達成できないのかい?」
「……わかんねぇんだよ。少なくともわかるまでは、時間を
そこまで聞いたカルロは、何かがわかったような
「そもそもディーノはさ、それを誰かに話した? 師匠から誰も
与えられた課題は一人でこなすものだと考えていたディーノにとっては、まるでなかった発想だった。
「一人でわかんないなら、聞いてみればいいんだよ。僕には無理でも、アウローラちゃん達なら
「……それができたら、苦労しねーよ」
「まーたアウローラちゃんとなにかあったわけ?」
「何もねぇよ」
これが二つ目の
あったとしても彼女に非があるわけではなく、問題があるとすれば自分の方だ。
彼女と話すことをためらう理由は、首から下げた指輪に
お互いに何も知らない子供同士なら、気やすく話してもいいのだろう。
しかし、知らなかったことを知ってしまった今は……。
シエルとのやりとりを見ても、アウローラがそんなことを気にする人間じゃないことは無論わかる。
でも、それを自分たちが気にしなくても、周囲が好意的に見てくれるとは限らない。
「ふぅん……。強いけど、弱いね」
「は?」
カルロの放った一言の意味が、ディーノにはさっぱりわからなかった。
「答え知りたいかい?」
ディーノはその問いに、首を
ふざけた謎かけと
「じゃあ、今度の闘技祭で
カルロと話すときだけは、どうしても調子が狂う。
「ちっ……」
「来週がちょっと楽しみだね♪」
舌打ちするディーノを見て、カルロはそれを
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます