紫凱の雷皇
早すぎる再会だった。
ディーノたちの目の前には、先ほど襲ってきたテンポリーフォの姿がある。
右前脚の爪は赤く染まり、その目は自分を傷つけたディーノに向かって底知れぬ
マナを探れても、その種類まで特定できるほどではない、せいぜい人間と魔獣の区別がつくかどうかと言うのもだが、おそらく相手はディーノの血の臭いをたどって、上空から攻撃を加える機会を狙っていたのだ。
戦えるのは自分一人、愛用の剣は敵の胸に突き刺さっている。
アウローラは戦えない
ならば、自分に注意が向かっているうちにケリをつける。
ペレグランデを
「来いっ!」
右手の指を二本だけ伸ばし、テンポリーフォの胸に突き刺さった剣に向ける。
その
直撃した稲妻は、
やったか?
と言う
晴れた視界の先には、ほとんどダメージを受けておらず、ピンピンしたテンポリーフォの姿があった。
今のディーノはダメージが回復しきっていない。そんな状態で放った魔術で仕留められる程度の敵ならば、こんなことにはなっていない。
テンポリーフォはさらに怒りのいななきをあげ、背中の翼を羽ばたかせ始めた。
翼が地面を叩くかのように巨体が宙を舞い上がり、ディーノへと向かって突進してきた。
最初の一撃で、
加速のついたテンポリーフォの攻撃に対して、ディーノは横でも後ろでもなく、真正面に踏み込んだ。
振りかぶられた右前脚に合わせて、風圧とともに迫ってくる攻撃よりも早く腹の下へと向かって飛び込んで行く。
狙いは胸に刺さった剣でそのまま腹を切り裂いてやることだ。
真っ二つとはいかないが、自分が武器を取り戻しなおかつ敵にダメージを与えられる。
だが、その思惑は読まれていた。
ディーノが真下に入り込んだと思った矢先に、テンポリーフォは羽ばたきを強め、そのままディーノの射程距離外へと上昇していく。
たとえ、飛行の魔術を使ったとしても、橋の上での戦闘で
だが、こちらが地上にいるということは、敵が常に上を取れるということ、そして下から攻める側が常に不利だということだ。
ならば、どうすればいいか?
テンポリーフォのさらなる突進に合わせて、ディーノは後方へと飛行魔術を|
相手もそれに合わせて突っ込んできた。
ディーノの体は
こいつの攻撃手段は制空権を取った上での近接攻撃に限られ、ルーポランガのような遠距離からの攻撃手段を持たない。
そこに絶対的な不利をくつがえす
せまるテンポリーフォに合わせて、ディーノは木の幹を駆け上がった。
勢いのついた体は止まることができず、テンポリーフォの体は幹に激突し大きくゆらした。
少なからずダメージはあるだろうが、ディーノの狙いはそこではない。
ディーノは突進の直前に幹を蹴って宙を舞い、激突して止まったテンポリーフォの真上に向かって落ちた。
上を取れないのならば、動きを止めて飛びつけばいい。
四足歩行の動物でなおかつ空まで飛べるのならば、背中を狙われる機会は少ない上に取り付いた相手を攻撃する手段は持たないと
これで剣を取り戻せていたのならば、後頭部を一突きすれば勝敗は決していた。
だが、それが叶わないならば別の方法を取らねばならない。
ディーノは次なる魔術のイメージを描く、それは魔獣を
その時、今まで自分が感じたこともないほどのマナが体の中から湧き上がり始める。
ディーノはまだ気づいていなかった。
アウローラからの視点で見たディーノのマナが、巨大な白と紫のドラゴンを象っていたことに。
背中に乗ったままのディーノは、その両手を右側の翼にかけた瞬間、その思惑に気づいたテンポリーフォが
だが、ディーノは
「おおおおぉぉぉぉーーーっ!!」
獣のような
羽毛が舞い散りながら光の粒となって消えていく、その痛みに苦しみながらテンポリーフォは止む事のない怒りで激しく暴れまわる。
翼の付け根に足をかける事でバランスを取っていたディーノの体は、翼を抜いてしまった事で支えを失い、勢い余った体は振り落とされて宙を舞った。
空中で体勢を整えようと飛行魔術を発動させるよりも早く、テンポリーフォの前足による打撃がディーノの胴に直撃し、地面へと叩きつけられた。
「かはっ!」
肺が一瞬呼吸を忘れるほどの衝撃を受けて、転げ回ったディーノが視界に収めたのは、テンポリーフォが自分から意識を逸らして背を向ける姿。
最も恐れていたことが現実となった瞬間だった。
奴の標的が、ディーノからアウローラに切り替わったのだ。
じわじわとにじり寄るテンポリーフォに対して、アウローラは満足に戦うことも背を向けて逃げることも適わない。
自分の背中を引き裂いた右前脚が、爪を立てて振り上げられる。
アウローラが死ぬ?
魔獣に食われて?
こんな寂れた森の中で?
せっかく、また会うことができたのに……。
ふざけるな、そんなこと絶対にあってはならない。
熱い……体を流れる血が
血液に乗って全身を駆けめぐっていくのは、この魂さえも焼き
指先から右腕へ、右腕から左腕へ、心臓から下がって両足へと命令が伝わっていく。
ディーノは、背を見せているテンポリーフォへ向かって走りだしていた。
アウローラの目の前で、右前脚を振り下ろさんとした瞬間、テンポリーフォは大きく後退する。
違う、ディーノがその尻尾をつかんで、根っこごと大木を引き抜くかのごとく、力任せにテンポリーフォの体を投げ飛ばしていた。
どれだけの体重差があるのかしれない、自分の何倍もある魔獣であるにも関わらず、ディーノはその巨体を反対側の地面に叩きつけた。
地響きとともに、苦しみのうめき声をテンポリーフォは上げる。
ディーノは自分でも信じられない光景への驚きを心の奥底に封じ込め、腹を見せてもがくテンポリーフォに刺さった愛剣に手をかけた。
「返して……もらうぞ……っ!!」
刃の向きに従い、剣を力の限り横に向かって振り抜くと、テンポリーフォの胴が、真ん中から裂かれていった。
空をゆく力を奪い、戦うための相棒を取り戻し、残ったやるべきことはただ一つ。
再び心に思い描く、この魔獣を一瞬にして
「とどめだ!!」
ディーノの剣に向けて落ちた紫色の稲妻は、感情がそのまま具現化したかのように強大で、今までとは比べ物にならないマナに満ち満ちている。
叩き込まれた
その周囲の地面さえも轟音と共にえぐり取り、何倍もの穴を
やがて治まったその場に残っていたのは、息を
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