授業が終わって

「さて、アウローラさんたちのグループは、総合一〇〇点のうち六十五点ってところね」

 集合場所に戻ったディーノたちは、最後に集めた宝石を提出し、それぞれのグループの成果を採点されていた。

 そこまでが終われば課題は終了となる。

「まぁ、今回はアクシデントがあったから点数が低いグループの子は気にしないでね」

 最初に遭遇そうぐうしてしまったフリオのグループはそのうち二人が魔獣にやられた傷がひどく学園の方で治療に当たっているということで、流石にそれで評価を下げるのはこくだとアンジェラも判断したのだろう。

 一位のグループは十五匹狩って八十二点。

 続いて二位のグループは十二匹狩って七十六点。

 彼らはルーポランガに遭遇してしまうこともなく、運良く着実に戦果をあげたということだった。

 マクシミリアンのグループは四十五点。

 狩ったのは十匹とディーノたちよりも多かったがなぜか低い。


「採点の基準はどうなっているんだ?」

 ディーノは素朴な疑問を出す。

「そうです! なぜ僕たちの評価が彼らより低いのか、説明を求めます」

 マクシミリアンがディーノの質問に便乗したが、その目にはディーノへの敵意が混ざっていることは一目瞭然いちもくりょうぜんだった。

「簡単な話よ。マクシミリアン君は、私情にかられて同じグループの子を見捨てての独断、どんなに高い実力を持っていても、協調性を持たない子に点数は与えられないわ。

 ディーノ君も同じ理由で減点させてもらったけど、カルロ君と助けを呼ぶ時間稼ぎをしたこと、結果論だけどアウローラさんと一緒にあの魔獣を倒した戦果を考慮こうりょに入れてこの点数ってところね」

 アンジェラは減点の詳細をきっちりと説明し、マクシミリアンもぐうの音が出なかったようだ。

「と言うわけで、今日の課題はこれで終わり。学園に戻ったら自由解散。

 フリオ君たちのグループは、土曜日に先生のいこみで代わりの課題を用意するから、あとで伝えておいてね」

『ありがとうございましたー!!』

 それぞれのグループごとに、転移の門で学園へ戻るとバラバラに歩き出す。

 校舎に戻る者もいれば家路につく者もいる。

 ディーノもすることは何もないと思い、寮へ戻ろうとした時だった。


「ねぇディーノ?」

 シエルがおもむろに声をかけてきた。

 最初はうっとうしいと思ったが、その後ろでアウローラが笑顔を向けている。

 顔は笑っているのだが、相手に有無を言わせないほどの威圧感を秘めていた。

 一応、あの時の借りを反故ほごにする気にはなれなかった。

「なんだ?」

「この学園はね。中等部より上の子は、授業が終わった後に"クラブ活動"していいんだ。ディーノは何かしてみたいことってある?」

 さらに詳しく話を聞くと、魔術を用いたルールのある競技を行うクラブもあれば、演劇や合唱と言った直接関係のない活動を行うクラブもあるようだ。

「別にねぇな。師匠から魔術の学園としか聞いていなかった」

「じゃあさ、じゃあさ、あたしのクラブに来ない?」

 ディーノの返答を聞くに、シエルは我が意を得たりと言わんばかりのガッツポーズを取りながら、目を輝かせていた。

「待ってくださいシエルさん。シエルさんのはクラブじゃなくて"同好会"でしょう? 強引な勧誘でしたら、委員長として止めさせてもらいます」

 クラブ活動は学園から活動の費用を予算から出してもらえることになっており、しっかりとした活動を行っていれば、それは学園内での評価にもつながるらしい。

 ただし規定以上の人数と活動報告がそろわなければ、生徒の自費でまかなう同好会だとアウローラから説明された。

「もう、分かってるって。どんなことするかの話ぐらいはいいよね?」

「入るかまでは保証しないからな」

 シエルに引っ張られるように、ディーノは後を付いていく。

 彼女がハメを外した行動を取らないようにと、アウローラが後ろに続き、カルロまで面白半分なのか一緒に付いてくる。

 学園の敷地しきちは思っていたよりも広く、授業を受けていた校舎や食堂以外にも色々な施設があるようだ。


 校舎に匹敵するほどの広い面積を持ったグラウンドでは、四角く区切られた範囲内で一つのボールを追いかけている生徒の姿が見かけられる。

 ボールはなぜか足で蹴り、手に持つことはしない。

 両端に網を張った四角い枠と、その側に一人だけポツンと立っている。

「向こうの奴らは何やってる?」

 始めて見る光景にディーノは聞いてみる。

「あれは"マジカルチョ"だよ。ゴール、あの枠の中にボールを入れて点数を競い合うんだ」

 カルロが説明する。元々は貴族の間で流行っていたカルチョと言う玉遊びだったらしい。

 ゴールを守る一人以外は、範囲外に出たボールを投げ入れる例外を覗いて一切手を使わず、足だけでボールを操るテクニック、激しく体をぶつけ合ってもあたり負けない耐久力とバランス感覚、相手を振り切る、あるいは追って走り続けるスピードとスタミナが必要になる。

 そして、さらに魔術が加わり、ルールを洗練して今の形になったらしい。

 それを見た王族が気に入り、今では国で最も人気の高い競技と言われ、地方ごとにチームが作られて興行収入が入るほどの規模を持っているとのことだ。

 よく見れば、蹴ったボールに風をまとわせてスピードを上げたり、地面を隆起りゅうきさせてボールの軌道を変えたりと、一見するとハチャメチャな攻防を繰り広げていた。

「ずっと昔は、手を使ったり、街中が範囲内だったり、人数の制限がなかったりで、場合によっちゃお祭りみたいだったってじっちゃんが言ってた」

 そして、魔術を使って相手の選手を直接殺傷するような行為をしてはならないと言う前提条件があると言うのは驚かされた。

 ディーノにとって魔術は戦うために使う以外の何者でもなかったのだから。

 そんな風に話していると、ボールが一つこちらに転がってきた。

「すみませーん」

 ディーノは声をかけてきた生徒に、ボールを蹴り返してやると、一礼してグラウンドに戻って行った。

「こんなこともやるんだな」

「戦うだけが魔術じゃないですよ」


 今度は、アウローラがグラウンド近くに立っている多目的用の講堂へと連れていくと、舞台の上で何人かの生徒が芝居にきょうじていた。

「ほら、そこに立ってるとイルカと被っちゃうよ! もっと左行って。そっちはもっと手前、あぁ寄りすぎ寄りすぎそこでストップ!」

 舞台の下で全体の指示を出していた一人が、アルマを使って呪文を唱えると、たちまち舞台がサンゴ礁と様々な魚が行き交う海底になっていた。

 どうやら、幻影を生み出す魔術を演劇の背景に利用しているらしい。

 確かに応用すればこう言った使い方もできるのは頭ではわかる。

 しかし、それを実際に行う発想の転換というものが、自分に果たしてあったかと言われれば絶対に無理だったのは間違いない。

 戦うためではなく、楽しむ、楽しませるための魔術、それはもう一つの極める道として確かに存在しているのだ。

「じゃあ寄り道もこれくらいにして、あたしのとこに行こうか?」


 シエルに連れられて講堂を出て、校舎を通り過ぎてたどり着いたのは、古めかしい三階建ての建物だった。

 現在の生徒が使っている校舎は、生徒数が増えたため二十年ほど前に新造されたものだと言う。

 それ以前は、今でいうと高等部だけで全校生徒も五十人ほどだった当時に使われていた"旧校舎"がここだという話だ。

 授業で使われている教室もあるので、照明は生きているものの、老朽化の影響かがれかかっている壁紙はそこかしこで見かけるし、床は足を踏み出すごとにギシギシと音を立てる。

 そして、二階の教室へたどり着くと、シエルはドアの鍵を開けた。

 六つほどの机と椅子を中央にまとめた以外は殺風景なもので、目を引くのは黒板のそばにある本棚くらいのものか。

 ここで一体なにをやっているのか、ディーノには想像がつかない。

「ようこそ! "学園七不思議研究会"へ!」

 シエルは黒板前の教卓に一人で立つと、意気揚々とした口調で言い放った。

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