第5話 焦るわたしと死神リタ

「反応がない……」

 わたしはSNSで鹿島から返事がないことに対して、焦っていた。直接メッセージを送ったのにだ。

 わたしは今、電車に乗っている。

 学校に行ってみるも、鹿島は欠席だった。悪い予感がしてきて、一時間目が終わった時には、誰にも言わず、早退。クラスメイトらから奇異そうな視線を浴びたものの、気にせず、教室を出ていった。

 車内はシート席に空きが所々あり、混んではいなかった。制服姿の高校生は自分だけのようだ。

 わたしはスマホの画面を食い入るように見つめたまま、鹿島の反応を待つ。

「もしかして、もう手遅れ?」

 わたしは最悪な事態を頭で思い浮かびそうになり、すぐにかぶりを振って掻き消した。

「そんなこと、絶対にさせない」

「焦ってるね」

「えっ?」

 気づけば、わたしの横に同じ制服姿をしたリタが座っていた。アイシャドウはないものの、袖からはちらりとブレスレットが覗き見える。

「変装ですか?」

「言うなら、そうなるかな。だって、ここで現れても、霞は見えてない相手と話す感じになるから」

 リタは言うなり、乗客らを確かめるように車内を見渡す。

「見えない相手と話してると変になるってことですね」

「そういうこと」

「というより、今のリタは他の人からも見えるんですか?」

「うん。だから、霞と同じ女子高生になってみた」

 リタは制服のリボンを手でつまみ、「これ、かわいいね」と声を漏らす。

「そうですか?」

「霞はそう思わないの?」

「わたしは別に……。そんなことより、鹿島くん、大丈夫ですよね?」

「鹿島くん? ああ、彼はどうだろう。さっき、駅のホームにいたけど」

「いたんですか?」

「うん。一応声をかけてあげたけど、どうかな。あっ、次の駅、彼がいた駅だね」

 リタの言葉に、わたしはドアの上にある液晶ディスプレイへ視線を移した。表示をしている駅名は確かに、鹿島の最寄り駅だ。わたしより三駅違いで、登下校でよく乗り降りするのは見かけていた。

「ここで人身事故とか起きなきゃいいけど」

「不吉なことを言わないでください」

「ごめんごめん」

 リタは口にすると、一転して真剣そうな眼差しを送ってきた。

「次、降りるつもりだよね?」

「つもりじゃなくて、降ります」

 わたしは強い語気で言い切る。

 一方でリタは笑みを浮かべ、「心強いね」と口にする。

「それぐらいの気持ちなら、彼を助けてあげられると思う」

「それは、鹿島くんは何とかしないとまずいってことですか?」

「それは肯定も否定もしない」

 声をこぼしたリタはおもむろに立ち上がる。

「まあ、このまま上手くいけば、わたしは無駄なことをしたってことになるかな」

「そういえば、リタは死神でしたよね。ですけど、まるで、わたしや鹿島くんを死なせないかのようなことをしてるように見えます」

「そう見えるよね」

「でも、それは、安易な死は選ばないでほしいっていう意味であって、何かしら手を尽くして、それでもダメなら死んでもらう方が、死神にとって、評価が高くなるからってことでしたよね?」

「よく覚えてるね」

「死神なのに変なことを言うなあって思っていましたので、それで」

「理想は二人とも死んでもらうことかもしれない」

「それは、ないと思います。それこそ、リタの計画通り的な感じみたいで、悔しく思います」

「いいね。そういう強い気持ち」

 リタはなぜか、片手で握りこぶしを作り、親指だけ突き立ててきた。わたしが反応に戸惑うと、「グッドラック」と言葉を続ける。

 同時に、車内の自動アナウンスで、次の駅名が読み上げられる。そう、鹿島がいるであろう駅に。

 わたしも腰を上げ、リタとともに、ドアの近くへ歩み寄る。

「リタは」

「何?」

「いい死神ですね」

「死神にいいも悪いもないと思う」

「何となくそう言うと思いました」

 わたしはリタと目を合わせ、表情を綻ばせる。

 対してリタは、「ふーん」と淡々とした調子。

「まあ、とりあえず、頑張ってってことで」

 リタはそう言い残すと、気づけば、目の前からいなくなってしまった。

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