第一章

第2話 謎のクラスメート

 始業式の校長の話はやはり長く、聞くのが苦痛でしかなかった。なので俺は本当に自分が透明人間かを再度確認した。

 堂々と舞台へと上がり、『ハゲ校長! ハゲ校長! ハゲ校長!』と連呼した。しかし校長は長ったらしい話をそれからも三十分は続けた。

 それがつい十分前の出来事である。

 今、この二年三組の教室では死亡者が十名出ている。校長の話を聞いた後に倒れ込んだ奴らだ。

 生徒をこんな状態にさせる校長の話はまるで凶器のようだった。しかし、透明な俺にとってはそんなこと関係ない。

 がらがら音を立てながら担任の先生は入ってきた。十人の死んでいる生徒を見て驚いているようだ。


「はいはいはい。みんな顔を上げてねー」


 優しそうだが、少し裏が入っている声で先生は生徒に呼びかけた。


「先生! 校長先生の話聞いて死にかけなのであと三十分は寝かせてください!」


 まだ許可は下りていないというのに一人の男子生徒は、机に重そうな頭を置き、すやすやと寝始めた。

 だが、そんな時間も束の間、先生の表情が恐ろしいものへと変わっていく。


「起きろー! 私だってな、あのハゲ校長のなっげえ話を聞いてイライラしてるとこなんだよ!」


 裏の部分が出てしまったらしい。

その美貌は裏を隠すためのただの飾りのようだ。教室に入った時の光輝かしい姿は偽物であったということを遺憾に思った。

 当然ながら生徒は驚愕の表情を浮かべ、死んだ十人も蘇っていた。


「ようし! みんな起きたな」


 始業式前までの口振りとは全く違った。どうやらキュート系ではなく、クール系先生としてこれからはやっていくようだ。そんな先生にがっかりする生徒もいれば、恐ろしくて身体からだを震わせている生徒もいる。少なくとも喜んでいる生徒は一人もいなかった。


「では今から自己紹介を始める。左前の席のたからおかからだ」


 唐突に始まった自己紹介に宝ヶ丘は「えー」とか何の文句も一つも言わず読んでいた本を置き、無表情で席から立ち上がる。


たから。趣味は読書」


 それだけ言い、席へと座った。どうやら早く読書をしたかったらしく、もう、宝ヶ丘の両手には本が収まっていた。


「おい、もう少しちゃんと自己紹介しろ。あと本読むな!」


 先生は軽く叱った。さすがに無視も出来ないのか宝ヶ丘は再び立ち上がる。


「ちなみに、読書を邪魔する人は常に所持している私のカッターナイフでそのみにくい顔を一刀両断する」


 クラスメートは宝ヶ丘のことを若干引き気味の視線で見ていた。まあ、無理もないだろう。宝ヶ丘はただの脅迫にしか聞こえなかった自己紹介を終え、再び席に座った。

めちゃめちゃ可愛い癖になんて勿体ない性格を持っているんだろう。


「じゃあ次の人」


 先生はため息をいた。宝ヶ丘に関しては叱っても無駄だと思い、諦めたようだ。


 それから十五分程続いた自己紹介がようやく終わった。当然ながら俺は一切自己紹介をしていない。本当にみんなは俺のことが見えていないのだ。


「じゃあ、もう帰っていいぞ。明日から通常授業始まるからな」


 先生がそう言ったので時計を見てみると針は十一時二十分を指していた。下校予定時刻だ。


「この後カラオケ行こうぜ!」


「いーね!」


「あと、ボウリングにも行こうぜ!」


「最高だね!」


 教室からはそんな会話がわされている。俺は誰からも誘いを受けない。透明人間でなくてもそれに変わりはないだろう。なんせ俺はぼっちだから。

 そんなことを考えた後で、明らかなる変人の宝ヶ丘の席に目を通してみる。しかし、もうこの教室からは姿を消していた。

 あの自己紹介といい、恐らく宝ヶ丘も俺と同じぼっちだ。


「俺も、もうそろそろ帰るか」


 教室を出て、下駄箱を出て、学校を出て、俺は家へと戻っていく。何故かもの凄いスピードで自転車を漕いでいる。恐らく、妹の耀ひかりのことを心配しているのだろう。

 朝、家にいなかったのは俺を探しに行ったとか、そんな感じの内容だと思う。

 しかし、俺は耀の泣き顔を見るまでは『透明人間』になんの不満感も抱いていなかった。

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