透明な俺でも人と関わりたい
刹那理人
序章
第1話 四月六日の出来事
俺は今日、夢を見た。自分がこの世界から拒まれ、孤立する夢を······。
眠い目を擦りながらスマホで時間を確認する。横並びになっている数字に思わず俺は驚愕した。
「もうこんな時間!? 二年生早々、遅刻なんて······やべえ!」
さっきまでの眠りたいという欲はどこか遠くに消え去り、俺はベットから飛び跳ね、ひたすら焦る。
そんな中、怒りと疑問が俺の身体を伝ってくる。
「
耀とは俺の妹である。個性的で可愛いらしいたった一人の俺の妹。
いつもなら「お兄ちゃん! 朝だよー!」とか元気溢れる声で俺を起こそうとする。それでも起きなかったらビンタを一発食らわせるのだ。
なのに今日はそれが無かった。
正直、俺は眠りが深いので目覚まし時計などでは起きられない。
「いない······」
おかしい。俺を起こさず、
「あいつ今日から学校だっけ」
カレンダーを見ながらそう言った。今日の日付は四月六日、俺らの新学期が始まる日である。腰を軽く落とし、四月六日以降のところを見る。
「四月十日······」
十の下には『始業式(>_<) 』と記されている。両親は仕事の関係でしばらく家を空けることになっているので、耀が書いたものだ。だが、十日から学校が始まるのならば耀の春休みはまだ終わっていないはず。学校は無いのにそんな朝早くから家を出る予定があるのだろうか。
俺は一つ思い付く。
「そうだ。あいつの靴」
玄関へと向かい、並んでいる靴を見る。耀の靴は無かった。やはり家を出てどこかに行ったのだ。
俺を起こすことも、俺に声を掛けることも無く······。少し、いやとても悲しい。嫌われたのか不安になった。しかし、そんなことを考えている内に刻一刻と時間は経ってしまうのでメッセージアプリに『もう、学校行っとくからな』とだけ書いて送り、朝飯も摂らず、用意もちゃっちゃと済ませ、誰もいない家にいつも通り「行ってきます」と声を掛け、学校へと向かうことにした。
自転車に
「おはようございます」
いつもなら挨拶をしたら返してくれる先生なのだが、そのまま俺の挨拶を無視するかのように横を素通りして行った。俺、何か怒らせのか? その時の違和感を俺はそう感じ取った。
階段を一段飛ばししながらダッシュで二年三組の教室へと向かう。
あと三十メートル、二十メートル······と近付く度に怒られる、という不安心が俺を襲ってきた。そして残り十メートルまで近付き、俺は怒られる覚悟を決めた。
「遅れてすみません!」
扉をがらがらと開け、入って早々謝った。これならばあまりキツくは怒られないだろう。しかし、担任であろう先生は言い
俺は――無視されていると思った。
「本当に新学期早々、遅刻してしまいすみませんでした」
今度は頭を下げた。これならばさすがに先生も無視はできないと、そう思った。しかし、話が終わる雰囲気は一向に出てこない。
この先生、そこまで怒っているのか。だとしたら結構な短気お姉さんである。だが、俺はあることに気が付いてしまった。
クラスメート、全員俺に見る目も寄越していないのだ。確かに、高校一年生の時から、俺はぼっちであり休み時間には本を読み、安らぎを得ていた。しかし、いくらぼっちでも
「あれ? 幽真君は休みなの?」
「ここにいないから多分休みじゃないすか」
――? 先生と生徒が発した言葉の意味が全く分からない。
俺は今、ここにいる。先生の左手側にきちんといる。クラスメイトのみんなの目の前に堂々といる。なのに、何故俺の存在をこの教室から消そうとしているのだ。
それが不思議で仕方がない。
「じゃあ、もうそろそろ始業式始まるから廊下に並んでね」
先生は俺を見ることも、気にすることもなく、生徒達にそう告げた。
「始業式だるいよなー」
「校長の話長すぎるしな」
そんな会話をしている男子生徒二人が俺の方へと向かって来る。これはぶつかるぞ。さすがにぶつかってでもしたら俺がこの教室にいることに気が付くだろう。だから自分から走って左の男にタックルをしてみる。目を瞑り、思い切りぶつかりに行った。しかし、まだ男達の会話は聞こえてくる。そして、俺はあることに気付いた。さっきと会話が聞こえてくる方向が違っているのだ。前から後ろに······逆の方向になっていた。
「なんなんだよ······これ」
恐ろしくなった。俺はさっき、人を通り抜けたということなのか。それではまるで幽霊じゃないか。
そんな非科学的なことなんてありえない。そう思いたかった。しかし、今、俺は確かにぶつかりに行ったはずだ。なのに何故、
脳が全く回らない。
困惑している中で俺も廊下へと出て、後ろの方へと並ぶ。
「おい」
声を掛けても誰も振り向かない。
「おい!!」
叫んだ。廊下待機中にこんな大きな声を出したら普通、先生に捕まり、こっぴどく叱られるだろう。
なのに。そのはずなのに。
誰も俺の方を見てくれない。
「おいおい、悪ふざけもいいとこだぞ」
俺は覚悟を決め、額に汗を流しながら、前の男の肩を掴もうとする。しかし、
「――!?」
その手は男の身体を通り抜けていた。これを見てしまっては恐ろしいが納得するしかない。
俺は四月六日――透明人間となってしまった。
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