替えのない存在
『ルアル!!!無事でよかった…』
「お前も無事でよかったよ。」
自宅の部屋の椅子に座り、携帯でヨアキムと連絡を取る。
当然最初はお互いの安否を確認するとこから始まった。
『どこの避難所行ってたんだ?見かけなくて心配したぞ?』
「山の方まで行ってたからな…なんとか隠れられたがそっちまで行けなくて…生きた心地しなかったよ…」
『災難だったな…』
本当のことは当然軍事機密、話せば今度こそ軍法会議行きだ。今も行く可能性あるけど。
…というか即刻しょっ引けないのも、軍司令部の有る中心から離れた国境付近の村だからでもある。
中央なら起訴不起訴が高速で決まっていただろう。
それにカイロスのこともある…
「…まったくだよ…。」
『連れの子は?』
「…怪我はしたが大丈夫だ…。正直情けないが…」
『確かにそこは男が守るのが道理だからな。』
「言い切るな…クるものがある…」
実際、あの時はカレンに頼りっぱなしだった。
守られ導かれ、カイロスに乗って何とか生き残れたに過ぎない…。
その時、携帯が他の携帯からの着信を知らせる。
相手は、アモルさん。
「すまない、他の人からの連絡がきた。今度また話そうな。」
『お、おう…またな』
切れたのを確認すると、アモルさんに通話を切り替える。
『すまないな、友人との電話だったか?』
「ええ、ですが仕方ないことです。俺のやったことがやったことですから。」
今、俺は自宅にいるが、あくまで仮の処置でしかなくまだ軍の監視は続いている。
なにせ、規格外の兵器の、今のところ唯一問題なく操縦できるランナーだ。
逃げられてもストライキされても困るだろう。
『そういうな…本題だが、まあ呼び出しだ。内容としてはカイロスの機能確認とカイロスからの聴取になってる。』
「了解しました。今向かいます。」
着替えて玄関に出るころには軍用車が止まっていた。
今の俺の立場は、軍協力者ということらしいが、正直軍から迎えが来るのは落ち着かない…。
正式な関係は今後次第だろう。
腰かけると、窓に寄りかかって到着するまでの間を黄昏て潰した。
◇
『では、改めてカイロスの基本仕様について説明させていただきます。』
格納庫のなかで幻影のカイロスがホログラムディスプレイを借りて説明を始める。
今回は、一応軍に協力しスペックを公開するという名目で行われているカイロス自身の説明だ。
『まず、私が建造されるに至った経緯ですが、ざっくり言うと実戦配備に向けた先行実戦型という形で試験投入された一機になります。』
ディスプレイにカイロス自身の図面が大きく表示される。
曲線と直線が混じったラインに有機性も感じる頭部が映し出される。
『もともと、この時代にとって一番のオーパーツであり、当機の性能を支える多目的ユニット、Dクオーツの特性を兵器として前面に押し出す形でつくられました。』
その中の一つから、水晶状のパーツが取り出されて拡大表示された。
『Dクオーツは空間を重力といったものの有無にかかわらず湾曲させられる能力に加え、それがジェネレーターかつコンピューターとして機能します。』
様々な図解が表示され、それぞれがDクオーツの特性を表現している。
空間湾曲で慣性制御をも行っていることから、ある意味心臓部だ。
『それまでに存在した兵器は、Dクオーツを上記の通りにジェネレーターとCPUとしてしか使用してきませんでしたが、当機はそれに加え相対性理論を用いて時間そのもの経過速度の変化を利用することまでできます。』
Dクオーツが機体に再び組み込まれ、機体全身に組み込まれたDクオーツがハイライト表示される。
『通常一基しか搭載されないDクオーツを多数かつ機体表面に露出させることで、機体外部の空間を通常よりも多く操作できます。同時に大量の演算を要求されますが…。』
「つまり、あの化け物じみた動きは自分の時間を加速させていたわけか…」
アモルさんが口を開く。
「レーザーならともかく、実弾を回避するのにはかなり役に立つ。それに機体の速度も純粋に上昇するしな。」
『はい。ですが、これは機体の演算負荷以上の問題を引き起こしました。ランナーに素質を求めてしまうことです。』
「素質…」
今度口を開いたのはエアルだった。
「…俺しか乗れないって言うのは俺がその素質を持ってるからで、持ってる人は少ないから…?」
それに取り調べの時も、いなくなると困るといっていた…
つまり、それはカレンが負傷してるなか、動かせるランナーが俺しかいないかもしれないという不安からきたのかもしれない。
カイロスはホログラムの肢体で頷く。
『…時間を加速することによるメリットと同時に、身体にも様々な負荷もかかります。客観的視点からは当然微弱な老化は起きますし。一番の問題は体内時計の乱れです。』
「…そんなにか?一番になるには少々インパクトに欠ける。」
『私達も最初はそう考えてました。ですが、そうやっていった結果、私の同型機のランナーが次々と倒れました。命に即座に関わることは少ないとはいえ、昼夜逆転、睡眠不良、最悪の場合重大な病気の引き金になったケースも。』
少々それで納得できるわけではないが、実際起きて戦闘に参加できないとなると話は別だ。
推して知るべし、と言わんばかりにカイロスの顔は苦々しい顔をしている。
睡眠不足で様々な病気のリスクは上がるし、物によっては一生後に引くものもあるだろう。
「…戦う前に倒れたってことか」
『はい。あ、忘れていましたが、旧世界の人間と今の人間には大差ないことが分かっていますので…無理矢理一戦だけなら可能といえば可能ですが、その後のケアは…』
無理矢理押し通すことは可能なのだろう。
国ぐるみでこいつを扱うのならやりようがある。ローテーションを組んで順繰りにランナーを乗せる。乗り終わったら体の調整のためにゆっくり休めば何とか使えるだろう。
しかし、この基地内での人員で回すとなると無理だし、そこまでしてこいつを使う必要があるのかという疑問もある。
恐らくその前にカイロスは中央に搬送されると思われるので、そのようなことは起きようがないだろうが。
「…」
そこで、疑問に思ったことがあったのかアモルさんが口を開く。
「さっき、同型に乗ったランナーは。といったな。」
『はい。』
「ならばお前のランナーは何ともなかったのか?」
つまり、数少ない実験部隊のうちに居た適性保持者が、カイロスのランナーだったという言い方をしたのだ。
『はい、適性を持つ者がいると身をもって証明してくれました。といっても彼はその後も大いに…っ!』
その言葉を遮ったのは、聞いたことのあるような轟音だった。
◇
「状況知らせっ!!!」
『砲撃ですっ!迫撃砲などによる攻撃を受けています!』
司令官の怒号を背に俺_アモル_はその直後体が反応するがままに走る。
向かう先は格納庫
「迫撃砲ってもこれ自走砲クラスのだよなぁ!!!侵入に気づかなかったのか?!ぅお!?」
ジャッカル3があらかじめそこにいたが、俺は引っ張って機体のところまで連れいてく。
『遠距離戦は他兵科の仕事じゃねぇのか?』
『俺達が特殊部隊なのを忘れたか?そういう装備もあるに決まってるだろ。…まあ本職にはかなわんが。』
「隊長が言う通りだ、ジャッカル3。」
『あれ使うのかよ!!!』
即座に両脇にあった武器ラックが展開し、その中から大型のスナイパーライフルとも表現できる大型砲を手にする。
AM-3AG 90mm対物狙撃砲、というらしい。
隊長も一応は同型だが、サブアームで後ろ側を支え実際に手に握ってるのは右手のみ、大型のミサイルランチャーを盾のように左手に持っている。
ジャッカル3に関しては背中にセミオートマチックの迫撃砲を搭載し、手にはサブマシンガンしかない。
『これって本来はこっちが砲撃するための装備…ですよね…』
『人の手が足らないんだから仕方あるまい。さて行くぞ、ジャッカル隊出撃!!!』
余りにも理不尽な状況の中、俺達は外に出る。
最新型のCIWSのおかげでいくらかの迎撃はできているものの、既に被害は無視できないレベルだ。
『こちらCP、敵が砲撃している思われる場所を割り出した…あまりいい知らせとは言えんがな…』
「朗報でしょう…ぁぁ…」
『ざっけんな!こんなもんテロリストが持ってるわけねぇだろ!!』
場所を見た途端、俺はため息をこぼしジャッカル3は逆ギレした。
指定された場所はこの町を取り囲む東側の切り立った山岳、歩兵の迫撃砲でも発射がおぼつかない地形。つまり迫撃砲を積んだ本格的なAGということになる。AGの踏破性は山岳を超えることを可能し、足という接地方法は様々な地形での砲撃を可能とする。だが、この口径の方を積むには専用機でないと難しい。テロリストがおいそれと手に入れられる装備ではないはずだ。
『とっとと行くぞ。死にたくないだろ?』
その一言と同時に、隊長が一射する。
命中点は専用カメラで探さないと見えないが、恐らく敵を見つけたのだろう。
『俺とジャッカル2がスポットしながら砲撃、ジャッカル3は俺達のレーザーポイントした地点にクラスターの雨を浴びせてやれ!』
『「了解!!!」』
その瞬間散開し、少しの間の後、そこにCIWSの傘を抜けてきた砲弾が突き刺さる。
『早速一部隊発見、二機ペアだ。座標を送る。砲塔持ちはジャッカル2が頼む、装填手は俺がやっておく。』
走行しながら俺は指定座標にスナイパーキャノンを、搭載された高感度センサーを向ける。
今まさに後ろから砲弾を入れられ、砲撃した瞬間をとらえた。
4脚型の中国産AG、イェズウ。
あらゆる地形で高い安定性を誇り、従来では考えられない地点からの砲撃を担当する機体。
まだ払下げの済んでない機体を持ち出すのを考えると、やはりそんじょそこらのテロリストとはわけが違うようだ。
照準を合わせる。
狙うは腰部、そこに当たれば砲撃に耐えられなくなる。
他のパーツより狙いやすく確実に無力化できる場所だ。
そして機体を急停止させた後しゃがみ、機体を安定させる。
「…レディ。」
『よし、撃て。』
小さな号令に合わせトリガーを引く。
音速を超えた弾丸は僅かに放物線を描きながら、狙った通り腰部の関節を砕いた。
運悪く装填手が砲弾を入れてしまい、弾丸が迫撃砲内部で正常に炸裂する。
反動は上半身と下半身の繋ぎ目をへし折り、機体は上下に分かれ崖を落ちていく。
当然砲弾もあらぬ方向へと飛んで行った。
『ドンマイ敵さん。おっと逃がすか。』
隊長も発砲し、味方の機体を破壊して後退りする機体の胴体を砕いた。
『こちらジャッカル3、俺の取り分あるんですかね。』
『安心しろ、固まってる奴らを見つけた。クラスター弾をお見舞いしてやれ。』
少しして炸裂音が響き、弾頭が俺たちの頭上を通り過ぎていく。
そして山の一角に突き刺さるような軌道を描いて飛び、そして空中で破裂した。
小型だがAGの破壊には充分な威力を持つ爆弾が、敵の一隊に降りかかり蹂躙する。
『こちらルーク1、すまないな、遅刻した。』
『なあに、こっちもさっき来たところだ。残ってる料理もまだ温かいぞ。』
戦車も射撃位置につき、遅れは大分取り戻したはずだ。
(さて、これで引いてくれればうれしいんだが。)
そんな俺の思考は真っ先に否定され、数は減れども降り注ぐ砲弾。
ため息をつきながら、仕方なくスナイパーキャノンを構える。
こういうのでは向いてる戦車隊より働ける自信はないが、それでも手を出したことを後悔させてやるくらいは働いてやるさ。
照準に収めたAGの胴体を俺は容赦なく貫く。
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