【EGFラストスパート支援!!】文章でしか表現できないこと
E.G.コンバット最終巻が、9月末の脱稿を目指して動いているとのことです!!
https://twitter.com/yoshimiru_SS/status/1554238996900745221
よく訓練された瑞っ子は、不確定な情報には踊らされないメンタリティが沁みついているようにも思いますが、できる限りの支援を、と久々にE.G.コンパットを取り上げたいと思います。
まずは、3巻のあとがきからです。
『わたしは基本的には夢見がちなオトコでありまして、「文章でしか表現できないこと」があると固く信じているフシがあります。本文を書くときも、「文章で表現してこそ面白くなる切り口を探して書こう」といつも努めておるつもりであります。例えば「ネットワークに侵入したハッカーと侵入阻止プロセスとが戦う」てなシーンはですね、パソコンのCMみたいなCGで見せられたって「いまさら」すぎてアレだし、それよりはハッタリかましまくりの文章で読む方がまだ面白いと思うんです。』
(1999)E.G.コンバット3rd p340
10年間新刊のない秋山先生ですが、いまだに秋山先生の文章に魅了され、影響された者が尽きない理由の一つは、間違いなくこれだと思います。
「文章でしか表現できないこと」
なぜ私たちが他の媒体ではなく小説を読み、小説を書くのか。
それは、文章でしか表現でのないことを読み、書きたいからではないでしょうか。
今回は、EGコンバット第3巻より、秋山節の真骨頂ともいうべき、文章でしか表現できないことを取り上げたいと思います。
他のことはからきしでありながら電子情報戦にかけては訓練生最強であるチャーミー・グリントが、システムに侵入を試みる際の描写です。
「ハッタリかましまくり」、との文章がどれほどのものかご覧ください。
①『チャーミーのスタイルは、「透過斥候」と呼ばれるタイプだ②。強力なツールで防壁をぶち破ったりはしないし、スピードに任せてデータを吸い上げて逃げ去るといった方法も取らない。③必要最低限の鍵と迷彩プログラムしか使わず、防壁に対しても「破る」のではなく「だます」という手段を取る。
(中略)
④そして、チャーミーは十六人に分裂した。
⑤ダミーではないポートを慎重に探す。⑥最初に見つけたポートに論理爆弾七つを仕掛け、全貝で侵入し、最外郭の防壁にたどり着いた。⑦ここまでに罠はない。チャーミーは一人を残して十五人に自殺をコマンド、システムチェックのルーチンに化け、慎重にも慎重を重ねて防壁を潜り抜けていく。⑧そして再び十六人に分裂、論理爆弾七つを敷設、次の防壁を目指す。
⑨三つの防壁を通過するのに、チャーミーは三十分近くを費やした。ルノアはどきどきしながらALFを見つめる。四つ目の防壁に近づいた瞬間、チャーミーが「あ」と言った。
「な、なにっ!?」「四人もやられました。ここ、」
⑩チャーミーはALFの中、擬似的に立体表現されているメモリー原の一個所を指差して、
⑪「ここから先って、なんにもないみたいに見えるでしょ。これ、『蒸発領域』っていう一種の阻止機構です。すごく揮発性の高い領域が、データの蒸発をピコセカンド周期で繰り返してるんです。送った信号が返ってこないから、そこからむこう側は観測できないんです。だからなにもないみたいに見えるんです。ここから中に入れるんだと思いますよきっと」
⑫「ど、どうやって?」
⑬「さっきと一緒です。正規のオブジェクトをひとつ捕まえて、コンテナの中身に偵察プログラムを入れるんです。直接中身を見れないのはしかたないですね。――うん、これにしよ」
⑭チャーミーは目につく限りで一番容量の大きいパケットに取りつき、中身を引きずり出して偵察プログラムと入れ替えた。
⑮「入りました。三十秒くらいで戻ってくると思います」
⑯結局、ルノアで五年、カデナで二日かかる作業を、チャーミーは三時間で終わらせた。⑰そのうちの二時間は、ケープカナベラルのレーザー通信施設の防壁をねじ伏せるのに費やされた。⑱粘っこくて攻撃的な防壁だった。チャーミーが用意していた七種類の鍵をすべてはねつけ、ついにはこっちの侵入に気づいて回線をロックし、逆探知を始めた。⑲そこでチャーミーが痂癩を起こした。ゾンビ化させた分身を六十体以上も使って防壁に突入し、コマンド起爆の論理爆弾で爆撃してシステムごと吹っ飛ばしてしまった。こんなチャーミーは珍しい。ルノアが見ていたせいかもしれない。
秋山瑞人(1999)E.G.コンバット3rd p78
いかがでしょうか。
専門用語っぽいものが登場しながらも、異常に動きのある描写として完成されていることが見て取れます。
まずは、①~③の「鍵」「迷彩プログラム」「だます」「防壁」という表現から、システムを守る壁のようなものがあり、そこに門や門番が置かれているというイメージが出来上がります。
これによって、ネットワークへの侵入という抽象度の高い事柄が、壁の中への侵入という具体的なイメージに置き換わります。以降は、まるで、敵地に潜入するスパイか特殊部隊のような比喩で全体が語られます。
ただ、そのうえで、④の『十六人に分裂した』というのはコピーが容易なデジタルデータの特徴をとらえた表現ですし、『論理爆弾』『蒸発領域』『データの蒸発』『コンテナの中身を入れ替える』などは、情報システム的なイメージと脱獄やスパイのイメージをうまく融合させて作り上げた、細部は不明ながらも概要が伝わる表現になっています。
さらに、分裂主体としてチャーミー本人の名前をあげることにより、まるで漫画のようにチャーミーの分身が潜入を試みている様子が脳裏に浮かびます。
こうして、あくまで「キャラクターの動作」として現象をとらえることによって、「映える文章」が作り上げられていることがわかります。
⑯の明確な数字で比較をするスペック説明は、絶妙にチャーミーの有能さを際立たせており、さらには、実は一本指打法しかできないルノアが電子情報戦についてはポンコツだということも示唆しています。
⑰⑱の「防壁をねじ伏せる」「粘っこい防壁」という表現や「用意していた七種類の鍵をすべてはねつけ」という表現は、触覚的で動きのある動詞、形容詞が選ばれており、全体の疾走感に一役買っています。
圧巻なのは、⑲です。
論理爆弾、というのがどんな代物で何をするのか詳細には説明をされていません。それでも、私たちの脳裏には、ゾンビ化された六十体以上の分身が特攻をかけてシステムを爆破する様子が鮮明に浮かび上がってきます。
また、普段大人しいチャーミーが得意な電子情報戦で張り切っている姿は生き生きとしており、ある種の爽快感もあります。
こうしたことは、「侵入」や「爆破」など動きのある描写として描いたからこそ生み出された効果なのだと感じずにはいられません。
まとめ
・抽象度の高い事柄を、比喩を用いつつ具体的なイメージに重ねる。
・キャラクターの動作として現象を再構成することで、「映える文章」が作れる。
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