千六十話 上手い擬態
「驚くことはないだろう。両国と関係のない国とはいえ、君の名を知っている貴族は多い」
「そ、そうでしたか。確かに、戦争ではそれなりに暴れたとは思いますが、自分としてはそれとこれとは別の感覚と言いますか」
「…………そうか。幼いながら、しっかりとしているな」
見た目云々の話ではなく、イスタンダル辺境伯からすれば、ソウスケは小僧。
幼く見えて当然だった。
「これは世間話だ。そこまで固く捉えてもらわなくて大丈夫だ。君たちは、グレンゼブル帝国に何が目的で訪れたんだ?」
「自分たちはドラゴニックバレーに行こうと思って、グレンゼブル帝国に訪れました」
本当に世間話なのか? という疑いの気持ちは多少あれど、特に隠す内容ではないため、ソウスケはあっさりとグレンゼブル帝国を訪れた理由を伝えた。
「ドラゴニックバレーに、か……討伐したいドラゴンでもいるのかい」
「えっと……これといって、特に討伐したいドラゴンがいる訳ではありません。ただ、冒険者なので……興味がある
場所を冒険しようと思いまして」
ソウスケの言葉を聞いて、イスタンダル辺境伯は数秒ほど黙り込んでしまった。
(ドラゴニックバレーを冒険する、か…………いや、ルクローラ王国との戦争の際、最前線で戦い続けた彼らであれば、普通の感覚なのだろうな)
ドラゴニックバレーが存在する国の国民としては、確かに上手く狩ることが出来れば一攫千金の夢がある場所だが、それと同時に……人によってはダンジョンよりも恐ろしい場所だと口にする者もいる。
「そうか。そういった目的でドラゴニックバレーを訪れる者は……おそらく、君たちが初めてだろうな」
「で、ですよね。あの、現地ではこういう事は言わない方が良いでしょうか」
ソウスケも決してバカではない。
バカではないが、色々と他人とズレてる感覚があることは把握している。
「ふむ……そうだな。多くのドラゴンが存在する谷、ドラゴニックバレー。そこにはドラゴンスレイヤー、竜殺しの称号を求めて多くの者たちが集まる。それこそ君たちの様な冒険者だけではなく、あそこには騎士たちもよく訪れる」
「箔を付ける為に、ですか?」
「ふふ、その通りだ。騎士にも差はあるが、総じてプライドが高い者が多い。どこで誰が聞いているか解らないとなれば、あまり訪れた本心を口にしない方が良いだろう」
その後も軽く世間話を続け、約一時間後にソウスケたちは退室した。
「…………ヌレールアも、幸運だったな」
「……当主様、彼は……本当に噂通りの方だったのでしょうか」
側近の執事が、ぽろっとソウスケに対する疑問を零した。
「あのエルフの女性と、限りなく鬼人族に近いオーガを従魔として従えてるとなれば、普通ではないのは解ります。ただ……本当に噂通り暴れっぷりが出来るのかと思うと……」
「お前の気持ちは解らなくもない。ただ……彼においては、そこがまた恐ろしいところだ」
「と言いますと」
「普通ではない。そこは解る。しかし、実際の戦闘光景を見なければ、本当の強さを把握出来ない。つまり……この上なく上手く擬態出来ているということだ」
「擬態が上手い…………………………つまり、今後も犠牲者が増え続ける、ということでしょうか」
執事の言葉に、イスタンダル辺境伯は小さく吹き出し、笑ってしまった。
「ふっ、ふっふっふ……そうだな。そういう事になるだろう。そうだな……これから、後数年間……下手すれば、五年以上は犠牲者、返り討ちされる者が絶えないだろう」
ソウスケの身体は、僅かずつではあるが、成長し続けている。
まだまだこれから成長する予定だが、それでも……顔は全く厳つくない。
付け加えるなら、威厳があるイケメンタイプでもない。
故に、身長が更に伸び、多少は体の線が太くなったとしても、解らない者たちからは絡まれるてしまう運命……なのかもしれない。
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