千五十九話 そう思うのであれば、いつも通り……

「なるほど、そういう考えがあっての行動だったのか」


「お見事です、ヌレールア様。本当に見事な、勝利への行動でした」


ザハークとミレアナもソウスケと同じく、ヌレールアの行動に心の底から称賛を送った。


「本当に……本当に、見事な、戦いぶり、でした。ヌレールア様」


護衛の騎士など、感動のあまり涙を流しながらヌレールアの行動を賞賛していた。


「はは。ありがとう、ございます…………でも、本当にあれで、良かったんですかね」


今になって、再び考えてしまう。


あのリザードマンを相手に、持久戦という消極的な勝負を挑んでしまって良かったのかと。


「良かったに決まってるじゃないですか、ヌレールア様」


そんなヌレールアの迷いに対して、ソウスケはノータイムで問題無しと答えた。


「今回の目標は、この二十日間の成果を実戦で出すこと。最低限、それが出来ていれば良かったんです。ヌレールア様…………自分たちとの特訓を始める前までのご自身であれば、あのリザードマンを相手に猛攻を凌ぎ、最後の最後、冷静な判断を下して討伐することが出来ましたか」


「……絶対に、出来ませんでしたね」


誰かに言われずとも解っていた事。


少し前の自分は、本当に弱かったと。


「出来なかった事が、出来るようになった。間違いなく、ヌレールア様は成長しました」


「今回の勝ちが、まぐれだったとしても、ですか」


「仮にまぐれだったとしても、ただ運を引き寄せただけのまぐれではないでしょう。そして、今ヌレールア様が今回の勝利はまぐれだと思うのであれば、次リザードマンと戦う時は運を抜きにして完璧な勝利を収められるよう、帰って今回の戦いを振り返り、記録して振り返りましょう!!!」


「っ……はい!!!!!」


不安に思うヌレールアの気持ちを否定せず、それならばそれでこれまで通り、今日の戦闘の反省点を振り返り、自分の糧とする。


教えてもらった方法を再度伝えられ、ヌレールアは涙を零しながらも、良い笑顔で返事を返した。



そして街に帰還すると……ソウスケたちはイスタンダル家の当主に呼ばれた。

部屋にはソウスケとミレアナだけではなく、ザハークも許可を受けて入室していた。


「君たちが、息子を指導し……結果、ヌレールアが一人でリザードマンを倒せるようになった。そう聞いている」


「はい、その通りです、イスタンダル辺境伯様」


目の前にいる人物は、辺境伯家の当主。

当然ながら、権力的な意味ではソウスケよりもずっと強い。


これまで通り緊張はしてるものの、ソウスケはこの現状を……もう仕方ない事だと受け入れ、堂々とした態度で結果を伝えた。


「ヌレールア様は最後まで冷静に自分の実力を過信せず、最高の判断を下し、勝利を掴み取りました」


「…………そうか。あの子は、強くなったのだな」


(……この人、絶対に今モテるだろうな)


イスタンダル辺境泊は既に四十を越えており、五十に迫る年齢。


世間一般的なイケメンフェイスではないものの……強面な面を持ちながらも、良い感じに歳を取っていた。

所要……イケおじと呼ばれる顔面を持っており、ソウスケは思わずこんな感じで見た目的な歳を取りたいなと思ってしまった。


「今回依頼を受けてもらったこと、心の底から感謝する。私では……あの子の沈んだ心を、どうにかする事は出来なかったからな」


「っ……どうも、ありがとうございます」


「…………君は、随分と謙虚なのだな」


「えっと、まだまだ若輩者なので」


ソウスケとしては謙虚な態度を取っているつもりはなく、ただ傲慢、不遜になる理由がないだけであった。


「そうか。あのルクローラ王国との戦争の最前線で活躍した英雄としては、随分と控えめで落ち着いた性格だと思ってしまってな」


「っ!!!!!!!!」


つい、驚きを隠せなかったソウスケ。


しかしイスタンダル辺境伯からすれば、ある程度の結果などを知っているのは、寧ろ当然の事であった。

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