千五十八話 まだ、未熟

「っ、どうやら……ヌレールア様は覚悟を決めたようだな」


攻めの姿勢、防御の姿勢に対して変化を感じ取ったソウスケ。


「つまり…………相手のガス欠を待って、倒すということか」


「おそらくな。温い倒し方だと思うか?」


「ヌレールアとあのリザードマンの戦闘力の差を考えれば、妥当な倒し方だ。実力差を考えれば、その時まで耐え続けるのも難しい筈だ」


既にヌレールアの体にはいくつもの切傷が刻まれていた。


加えて、体力の残量に関してはリザードマンが勝っている。

モンスターにも魔力切れによる非常に強い倦怠感はあるものの、現状では両者共にデッドレースに近い状態。


「あら、ザハークでもそういった事が解るのですね」


「……想像だ」


ザハークの場合、攻めて攻めて果敢に攻め続けて勝利を捥ぎ取る。


ミレアナはそれを知っている為、素直にザハークがヌレールアの戦い方を褒めるのが意外に感じた。


「ヌレールア様はしっかりガードするだけじゃなく、時折攻撃も仕掛けている。一応、カモフラージュは出来てるけど……あのリザードマンが気付くと思うか?」


「難しいところですね。剣ではなく槍を使っている時点で普通の個体には思えませんが、だからといって知力まで普通ではないとは限りませんし……ですが、少なくとも魔力が切れたからといって、逃げることはないかと」


「ミレアナの意見に同感だな。リザードマンもリザードマンで、相手が激しく消耗してることには気づいてるだろう。であれば、魔力が切れたとしても、確実に殺そうとする闘志が体を動かす筈だ」


同じモンスターであるザハークは、リザードマンの行動を把握していた。


そして……ついに、その時が訪れた。


「っ!!!???」


リザードマンはリザードマンで中々仕留めきれない敵を倒すことに集中し過ぎ、自身の魔力量管理を怠ってしまった。


その結果、槍をまともに受け止められてしまった。


「ああぁああああああああっ!!!!!」


千載一遇のチャンスを待っていたヌレールアは魔力を纏った大剣で、リザードマンを一刀両断……するのではなく、大剣を盾にする様な形でリザードマンに飛び掛かった。


「おら!!! おら!!! おらッ!!!! ぅおらッ!!!!!」


リザードマンは飛び掛かりという予想外の行動に備えられるわけがなく、そのまま押しとされ……馬乗り状態にされた。


そしてヌレールアはそこから両拳をメインに魔力を纏い、何度も何度も鉄槌を振り下ろした。


「おらッ!!! おらッ!!!!! せやっ!!!!!」


何度も何度も……飛び掛かった瞬間から、体力が尽きるまで絶えず鉄槌を振り下ろし続けた。


「はぁ、はぁ……はぁ…………や、殺っ、た?」


ヌレールアの両拳は血まみれになっており、体も血飛沫で血まみれ状態。


「お疲れ様です、ヌレールア様。あなたの勝利です」


振り下ろされ続けた鉄槌は既にリザードマンの頭部を……頭蓋骨を、脳を砕き、完全に爆散した状態となっていた。


「僕が……勝ったん、ですか?」


「えぇ、そうです。ヌレールア様の目の前に、頭がないリザードマンがなによりの証拠です」


「……………………本、当に僕が……倒したん、ですね」


なんとか力を振り絞って立ち上がり、先程まで馬乗りになりながら必死に鉄槌を振り下ろし続け、ようやっと討伐したリザードマンの死体を確認。


「ヌレールア様、最後……どうして大剣で切断するのではなく、馬乗りになって殴り倒すという選択を選んだのですか?」


選択自体は、非常に虚を突く素晴らしい内容であったのは間違いない。


だが、少なくともソウスケは大剣で勝負を決めるとばかり思っていた。


「……僕の大剣は、まだまだ未熟です。相手がリザードマンとあっては、仮に魔力を纏えず、身体強化のスキルを使えなくなっていても……受け止められてしまうかもしれないと思って」


自分はまだまだ弱い。

だからこそ、どう倒すか。


それを更に深く考えた結果、馬乗りからの頭部を殴り続けるという選択を選んだ。


その選択に、ソウスケは改めて賞賛を送った。

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