千五十五話 発揮することが目的
「では、行きましょうか」
ヌレールアに指導を行う二十日間の最終日……ソウスケたちは普段探索している場所よりも、更に奥のエリアを歩いていた。
(オーガ……一応、オークの上位種もあり。リザードマンは避けたいところ。フォレストゴーレム……戦う価値はありか。様子見して無理そうであれば、助力すれば良い)
今回のヌレールアとCランクのモンスターと戦ってもらう件に関して、ソウスケたちから与える卒業試験というわけではない。
仮に討伐出来なかったからといって、特にペナルティはない。
ただ、ソウスケがこれまでヌレールアが積んで来た成果を見せる相手として、Cランクモンスターという丁度良い相手を選んだだけ。
「…………」
しかし、ヌレールアは非常に重要な試練と捉えていた。
その影響もあって、表情が普段よりも緊張感が強いものになっていた。
「ヌレールア様、今回のCランクモンスターと戦う件に関しては、特別な試験という訳ではありません。もっと気を楽にしてください。でなければ、出せる力も出せなくなってしまう」
「っ!! す、すいません」
「いえ、謝る必要はありませんよ。私は指導する立場という事もあって、ヌレールアが現在感じている想いを完全に理解は出来ません」
受ける言葉に対して、感じ方は人それぞれといった内容を同じく、本当にソウスケたちはヌレールアに特別な試験を課したつもりではなくとも、ヌレールアがどう捉えるかはまた別問題。
「ただ、個人的にはこの二十日間、学び積み重ねてきたことを全力で発揮する……結果ではなく、そこを意識して頂ければ幸いです」
「……はい!!! 心に刻んで、戦います!!!!」
あまり重苦しく考えてほしくないものの、気合が入り過ぎているといったことはなく、丁度良い塩梅でやる気に満ちていた。
そして約一時間後、Cランクモンスターを発見したソウスケ。
だが、そのCランクモンスターは候補から外していたモンスター、リザードマンだった。
(リザードマンか~~~……あいつは止めとこう。なんでか知らないけど、剣じゃなくて槍を持ってるし)
現在ソウスケたちが探索している環境と、全く違う環境に生息しているリザードマンは、逆に剣ではなく槍を持つ個体も多いが……通常種のリザードマンが槍を扱っているのはかなり珍しい。
「ソウスケ殿、あの個体はリザードマンランサーでしょうか」
「……どうやら、通常のリザードマンのようです」
「という事は、ランサーへと進化する個体……なのでしょうか?」
「そこまでは解りませんが、個人的に仕方なく拾った武器を装備している様には見えません」
歴戦の猛者、と言うのは大袈裟ではあるが、それなりの雰囲気を持っている個体。
「…………僕、あの個体と戦います」
「っ、ヌレールア様。あのリザードマンはお勧め出来ません。というより、リザードマン自体Cランクモンスターの中でも「構いません」っ……」
まだ時間はある。
他のモンスターを探しましょう。
そう言おうとしたソウスケだが、ヌレールアの意志が籠った言葉に遮られる。
「僕は、あのリザードマンに……僕が積み重ねてきた学びを、ぶつけたいです」
「…………分かりました。ただ、もう駄目だと判断した場合、こちらの判断で動かせていただきます」
ソウスケの言葉に、ヌレールアは覚悟を決めた表情を浮かべながら、深く頷き……槍を持つリザードマンがいる方へ向かって足を踏み出す。
(俺は、ヌレールア様の覚悟を甘く見過ぎていたのかもしれないな…………俺の方が気負い過ぎというか、心配し過ぎだったな)
絶対に勝てるという保証は必要ない。
今回の戦いは……ヌレールアがこの二十日間、学び積み重ねてきた集大成を発揮することが目的。
その思いを胸に今……ヌレールアとリザードマンが対峙する。
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