千五十六話 数値化すれば……しかし

「それで、実際あいつの勝率はどれぐらいなんだ、ソウスケさん」


「………………良くて三割。悪くて一割ってところだな」


覚悟を決めてヌレールアを送り出したソウスケだが、明確にヌレールアが槍使いのリザードマンに勝てるイメージが浮かばない。


「槍と大剣だと、槍の方が多少有利だからな」


ソウスケの説明通り、ファーストタッチ以降……リザードマンが果敢に突きでヌレールアを攻めていた。


(対槍の訓練は行ったけど、俺やミレアナ、ザハークとの訓練とは感じるものが全く違うだろうからな……表情を見る限り、一応まだ大丈夫そうか)


リザードマンが使用している槍のリーチはヌレールアが使用している大剣よりも長く、リザードマンには長槍を思いっ切り突いて払えるだけの腕力がある。


技術面で言えば……護衛の騎士やソウスケから視て、当然一流には届かない。

だが、槍を持つ姿が堂に入っていると感じた雰囲気に嘘はなく、並みの槍使いほどの腕前はある。


「……魔力量はヌレールア様の方が勝っていますね」


「元々魔法使いとして努力をしてきてたんだ。纏っている魔力の量も……うん、上手く調整出来てる」


限度はあれど、魔力を纏う量が増えれば、防御力も増す。


しかし、当然ながら使い過ぎれば直ぐにガス欠になり、魔力がなくなれば身体強化などのスキルも使用出来なくなる。


(……身体強化の練度は、リザードマンの方が上か。あのリザードマンが、身体強化以外のスキルを持ってなかったのは、不幸中の幸いだったか)


仮にリザードマンが腕力強化のスキルを持っていれば、仮にスキルレベルが一であっても、身体強化との同時発動であっさりと薙ぎ飛ばされて終わっていた。


「やはり、耐久戦が一番でしょうか」


「そうですね。もしかしたらヌレールア様は真正面から打ち勝ちたいと思っているかもしれませんが、武器の相性も含めると、やや無理があります」


現在ヌレールアが使用している大剣は非常に頑丈。

加えて、使用者が魔力を注ぎ込めば、刃が欠けていようと……ボキっと折れてしまおうとも、それ相応の魔力が必要になるが、再生できる。


新人冒険者であれば、わざわざ壊れれば新しい物を買う必要がなく、喉から手が出るほど欲しい性能ではあるが、所有者を強化する能力は付与されていない。


つまり、武器は欠ければ魔力を利用して実質タダで修復出来るが、戦いの最中……ヌレールアを助けてくれるわけではない。


「………………まぁ、まだ心配しなくても良いんじゃないか。あいつの表情は、全く折れていない」


ザハークの言う通り、時折タイミングを見計らい、攻勢に出ているヌレールアの表情には……多少の焦りこそあるが、絶望は一切ない。


「あれは、まだ戦える奴の顔だ」


「……そうだな。一応、リザードマンにもダメージは与えられてる」


ヌレールアの方が多くの傷を追っているが、それでも出血多量で戦闘不能に繋がるほど大きな傷はない。


(これまでのどの戦闘よりも、攻撃をガードする重要性が高いからか、この戦いの間の中でも……大剣を使った防御の仕方が上手くなってる)


戦いの中で成長する、というのは言うほど簡単な事ではない。


簡単に口にすれば、それが出来れば苦労しないと、多くの者からツッコまれてしまう。


(少なくとも、ヌレールア様は経験を即座に糧に出来るだけの眼と体がある、ということか)


ソウスケは徐々に……徐々に、拳を握る力が強くなっていた。


少なくとも、槍使いのリザードマンとヌレールアの戦闘力を数値化すれば、ヌレールアはリザードマンに勝てない。


それでも……戦いの流れを見ていると、どうしてもジャイアントキリングを期待してしまう。


(なんとなく、ヌレールア様も感じ取ってる筈だ。でも、そこで油断しては、駄目ですよ)


ヌレールアは、まだ自分たちとは違う。


それを理解しており、いつでも助けられる準備を始めた。

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