千三十九話 嫉妬、ではない

「ザハークから見て、ヌレールア様はどうだった?」


帰り道、ソウスケはザハークにヌレールアに対する印象を尋ねた。


「…………とりあえず、今のところ根性がある奴ではあるな。才能がないタイプとも思わない。まだ……年齢は二十になっていないんだったか? であれば、化ける可能性は十分あるかもしれないな」


教育、育成に対して興味を持っていないザハーク。

ただ……ソウスケと共に行動しているうちに、それなりに解るようになっていた。


「そうか……つか、悪いなザハーク。退屈な依頼に付き合わせて」


「構わない。俺はソウスケさんの従魔だ。それに……ドラゴニックバレーが逃げることはない。そもそも此処は、これまで俺たちが活動していた国とは別の国だ。寄り道というのも、悪くない」


(ありがたいね。というか、解ってたというか、人の言葉を喋れる時点であれなのかもしれないけど……随分と考え方が人間臭くなったな)


その変化を嬉しく思ったのか、小さな笑みを零し、今度はミレアナに感想を尋ねた。


「ミレアナは、どう思う?」


「私的な感情としましては、ソウスケさんにあそこまで敬意を持つ者は是非とも鍛え上げたいと思えました」


「そ、そうか。それで、戦闘者的な目線的にはどうだ」


「基本的には、ザハークと同じですね。現在の年齢を考慮すれば、変われるギリギリのタイミングでしょう」


ザハークと同じく、教育や育成にさほど興味はないミレアナだが、元々客観的な眼は備わっていた。


「素質は悪くなく、魔法使いから戦士に変わりたいというのは、些か無謀の様に思えなくもありませんが、あの覚悟が継続するのであれば、不可能ではないでしょう」


説明の中に、ソウスケに敬意を持つ者だから……といった忖度は欠片もなく、ただ事実だけを述べ続ける。


「加えて、魔力操作の技術力も悪くありません。このまま魔力操作の訓練、それに慣れれば実戦……これを繰り返していけば、数年後には魔法戦士として活躍出来るかと」


「そっか……そう考えると、やっぱり二十日間のうち、どこかでモンスターの討伐に行きたいよな~」


前情報として、ある程度の戦闘経験があることは解っている。


ただ、本気で変わり続け……理想の自分へと生まれ変わるのであれば、身に着けなければならないことがまだまだある。

本気で自分に教えを乞おうとしているヌレールアには、是非ともそれらを教えられるだけ教えたかった。


「…………ソウスケさんは、随分とあの貴族の令息を評価しているのだな」


決して、ヌレールアに才がないとは思っていない。

瞳の奥に覚悟が宿っていたのは間違いない。


だが、ザハーク的には、将来が楽しみな逸材……とまでは思えなかった。


「ザハーク、もしかして嫉妬ですか?」


「嫉妬? ふむ…………いや、違うな。ただ、純粋な疑問だな」


適当に否定はせず、数秒ほど考え込んでから、そうではないと否定した。


「……多分、ヌレールアは望んで戻って来たわけじゃないと思うんだ」


ソウスケはヌレールアの瞳から、覚悟から……強くなりたいと、変わりたいという気持ちを感じ取った。


(俺は経験がないからあれだけど、多分あぁいった目標を持った理由は……学園にこれ以上居たくない。そういったトラウマを抱えてしまったからだろうな)


ヌレールアが生まれた家、イスタンダル家の爵位は辺境伯。


決して、決して多くの貴族から嘗められるような家ではない。

爵位だけは立派であり、中身は伴っていない張りぼての家でもない。


ただ……それでも、トップではない。

その他諸々の事情もあり、家の力ではどうこう出来ない問題を抱えていたのは間違いない。


「体形が変わってしまう程のストレスを感じる体験をした。にもかかわらず、再び前を向こうとするのは……並み大抵の精神力じゃ出来ないと思うんだ」


「つまり、ヌレールアの変わりたいという……根性? に感動したといったところか?」


「ふふ、まぁそんなところだね」


体験した辛さが解るとは言えないが、想像は出来るからこそ、彼の力になれればという思いが強く溢れていた。

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