千四十話 前と今の違い
「それでは、今日も頑張っていきましょう」
「はい! よろしくお願いします!!!!」
翌朝、ヌレールアが朝食を食べ終えてから数十分後に、早速トレーニングが始まった。
ソウスケは先日把握したヌレールアの体力を計算し、午後から電池切れにならない程度の筋トレを指示。
あの日見たソウスケの様に、前衛で戦える男になりたいと熱く燃えているヌレールアにとっては、一切気が滅入ることなく……寧ろどれだけ辛くても成し遂げてやる!!! と、やる気に満ち溢れていた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「お疲れ様です、ヌレールア様。このトレーニングを、本格的に訓練を始める前に行ってください。そうですね……理想の体型になるまでは持続してください」
「は、はい!!!!」
準備運動という名の筋トレが終わった後は、魔力操作のトレーニングが始まる。
「ヌレールア様、右腕の方の形が崩れています」
「は、はい」
ミレアナの指摘に気付き、直ぐに魔力で作っていた長方形を元に戻す。
(とりあえず……順調と言えば順調かな。とりあえず休みなしで続けるけど…………いや、彼の覚悟を疑うのは止めよう)
先生がいる前だけは優等生らしい態度を取り、先生がいない前では適当にだらける。
そういった人物を、ソウスケは前世で見てきた。
ぶっちゃけた話、ソウスケ自身も自習時間などで、教室に教師がいなければあまり真面目に自習するタイプではなかった。
そんな奴らと、自分と……ヌレールアは違う。
今日、既に約束の時間には庭で待機していた。
まだ二日目という事を考えれば、それは当たり前だと言われてしまうかもしれないが、先日……初日だからといって、ソウスケは決して楽なトレーニング内容を提示していなかった。
「楽しそうだな、ソウスケさん」
「……理由は、昨日伝えた通りだよ」
「ふむ…………やはり、ソウスケは指導者の才もあるということか」
「才があるかどうかは解らないけど……本気で頑張ろうとしてる人の背中は、支えて……押したくなるタイプかもしれないな」
「となれば、老後は教育者だな」
教育者。
その言葉を聞いたソウスケは十秒ほど考え込んでから……小さく笑い、首を横に振った。
「ザハーク、そもそも老後にそういった職に就くかはおいといて、教育者って言葉は俺に似合わない」
「??? どうしてだ。少なくとも、俺は悪くないと思うが」
「ありがとな。でもな、教育者ってのはただ強くなる方法を教えれば良いってもんじゃない」
「ほぅ?」
ソウスケの中で、教育者という言葉を聞いて真っ先に思い浮かぶのは……前世の教師たち。
彼等の仕事は、決して教え子たちを強くすることではない。
「強さ以外に礼儀や知識、そういった部分も教えなければならない。カウンセラーのような真似事をする時もあるだろう」
そこまで口にしたところで、ふとソウスケは思った。
(ん???? …………そういえば、この世界と少し前まで生きてた世界では……諸々と違う、か)
前世では国語やら数学やら理科社会と……本当にそれは社会に出て役立つのか? と疑問に思うことばかりを学んでいた。
結局、ソウスケはその世界で社会に出ることはなく、大人にすらならず異世界に来てしまったため、学校という場所で学んでいたことが本当に社会で役立つのか否か分からずじまいとなった。
しかし……この世界で学園に入学するということは、基本的に必要な知識を学ぶ為に学園に入学する。
(……戦闘関係を専門にする教師たちがいたわけだし、そう考えると……この世界では、割と俺みたいな奴でも教育者としてやっていけるのか?)
可能性はゼロではない。
寧ろソウスケの実力を考えれば、引く手数多である。
「………………」
「どうした、ソウスケさん? 何か悩み事でも生まれたか?」
「いや……ザハークの言う通り、割と教育者になれるのかと思ってさ。まっ、今のところその予定はないけど」
今は、目の前のヌレールアという、新しい自分に変わりたいと心を燃やす青年に力になることしか考える必要はなかった。
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