千三十八話 そんなもの

「ヌレールア様、大丈夫ですよ。世の中そんなものですか」


ソウスケは、素直にヌレールアが自分が馬鹿で阿呆な連中にダル絡みされた件について、怒りを露わにしてくれたことが嬉しかった。


ただ、ソウスケ自身……怒りが湧かない訳ではないが、それでも致し方ない事だと受け入れている。


「だとしても、僕は…………」


ソウスケが受け入れているのであれば、自分がとやかく言うことではない。

それは解っていても……ソウスケという冒険者に対して敬意を抱いているヌレールアとしては、やはり憧れの人物がそういった絡まれ方をしていると知れば、怒りを抑えることは出来なかった。


「……ありがとうございます。ですが、やはり世の中そんなものです。受け入れるしかないかと」


「っ……そう、ですね。そうですよね」


世の中そんなもの……そう言いたくなる、認めるしかない経験はヌレールアにもあった。


「ですが、力があれば世の中そんなものだと認めつつも、馬鹿や阿呆たちを返り討ちにすることは出来ます」


「っ!!!」


「世の中、残酷な面もありますが、力があればそういった状況を跳ね返すことは、確かに出来ます」


「……先生も、そうやって頑張って来たんですね」


「ま、まぁそうですね」


そんな事はないんですよ~、神から大量のスキルを貰ったお陰なんですよ~~、なんて言えない。


実際のところ、それはそれとしてダンジョンの下層から抜け出せたのはソウスケの度胸などが要因ではある。

しかし……それはそれで、これはこれ……ソウスケが神から貰った十五個のスキル、最初からスキルレベルが五というのは……やはりチート的な力であった。


「それと、強くなれば……壁を乗り越え、強敵に打ち勝つ経験が増えれば、徐々に自信という自分の中にある芯が太くなっていきます。そうなれば、心にも余裕が生まれてバカ絡みしてくる者たちへの苛立ち、ストレスは少なくなっていくかと」


「そ、そうなんですか?」


「勿論、個人差はあると思います…………ヌレールア様も、ご自身の力の自信を持てるようになれば、いずれ解かるかと」


精神的な話であり、今すぐ教えても意味はないと思い、詳しくは語らなかった。


今のヌレールアに必要なのは、強くなるという向上心。

途切れることない心の炎。


「後……これは先程伝え忘れていましたが、訓練中……何かしらの褒美を、用意しておいた方がよろしいかと」


「褒美ですか? 強くなると決めた以上、そういうのは不要かと思っていましたけど」


「我々は、やはり人間です。走り続けていれば、どこかで息切れしてしまうかと」


「ソウスケさんの言う通りです。休息という褒美は必ず必要です」


二人の真剣な表情を見て、強くなる上で……本当に必要なのだと解り、ヌレールアは自分にとって褒美とは何なのかと考え始めた。


「……甘い食べ物など、でも良いんですか?」


「えぇ、勿論です。あまり食べ過ぎるのはお勧めできませんが。っと、そういえば自分たちの冒険譚を話していたんでしたね」


何を話そうかとほんの少し悩み、ダンジョンなどに関する冒険譚を数十分ほど話したところで、休憩終了。


それから夕食時になるまで魔力と体力を限界まで消費するまで訓練を続けた。


「はぁ、はぁ、っ……はぁ、はぁ」


「お疲れ様です、ヌレールア様」


「あ、ありがとう、ございました。先生、ミレアナさん、ザハーク、さん」


超汗だくであり、息絶え絶え。


そんな状態ではあるが、それはヌレールアがソウスケが用意したメニューに対し、全力で取り組んだ証でもある。


「それでは、自分たちはまた明日の朝来ます。しっかりと夕食を食べてください。それと……焦る気持ちはあると思います。ですので、夕食後にまた訓練を始めるのは止めません。ですが、オーバーワークはあまりお勧めできません」


非常に真剣な眼を向けられ、思わず呼吸を止めてしまうヌレールア。


「休むの、寝るのも強く……成長するために必要な事です。それを、忘れずに」


「っ!!! は、はい!!!!!」


こうして、一日目の訓練は終了した。

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