千三十六話 頑張ろう

「それでは、次はヌレールア様が望む接近戦の戦闘スタイルについて話し合いましょう」


「ぼ、僕が望む戦闘スタイルは…………ソウスケさんの様に、理不尽に暴力を振ります相手を、捻じ伏せたいです」


「な、なるほど」


とりあえず、自分が褒められている。

それに嬉しさはあれど、もう少し具体的なビジョンがほしい。


「それは、接近戦は体術をメインに戦いたいという事ですか? それとも戦斧や双剣……一応、自分のメイン武器はロングソードになります。相手を捻じ伏せるというイメージに合わせるのであれば、大剣や大斧という得物もありかと」


「っ……僕としては、その体術ばかり、考えてました」


「そうでしたか。では、理想は体術で相手を捻じ伏せる、と……一応、先に伝えておきますが、自分たちが体術について指導を行ったとしても、ヌレールア様が絶対に体術の達人になるとは断言出来ません。それでも、大丈夫ですか」


そもそもな話、ソウスケは暴れるクソ同業者に電撃を浴びせさてその後は思いっきり街外にぶん投げたため、体術と表現できる方法で理不尽に暴力を振り回すバカを捻じ伏せたとは言い難い。


「も、勿論です!!!!!」


「ありがとうございます。では、もう少し話を詰めていきましょう」


これまた、まずソウスケにはそこまで指導経験があるという前提の話になり、正直なところ……あまり自分に期待しないでほしいという思いがあった。


ただ……それでも、目の前の青年が本気だと解ってしまったこともあり、達成出来るか否かは置いておき、更に中途半端にしたくないという気持ちが大きくなった。


「体術以外の接近戦に向いた武器の中で……捻じ伏せるという言葉に相応しいのは、やはり戦斧……もしくは大斧、大剣でしょう」


「あの、そういった大きな武器を使う場合、大きな隙が生まれてしまうことが、少し不安で」


「そうですね。大斧や大剣にはそういったデメリットもあります。しかし、動きながら攻撃魔法を発動する並列詠唱……詠唱破棄を行いながら扱えれば、そのデメリットも打ち消せます」


「っ!!!! え、詠唱破棄、ですか」


元々魔法使いとしての道を志していたヌレールアとしては、それが行える者たちを憧れることしか出来なかった。


「自分たちが伝えられることは、全て伝えます。加えて、ヌレールア様は今……十五で、合っているでしょうか」


「は、はい。そうです」


「では、少なくとも三年以上の時間がある訳です。学園に通っていない、という事を考えれば、他の同世代の者たちよりも多くの時間を強くなることに使える筈です」


ソウスケがヌレールアに伝えていることは……一応、一応間違ってはいない。

理屈的にはその通りなのだが、中々無茶なことを伝えている。


例えば、プロゲーマーになりたい、ゲームで飯が食いたい者がいたとして、何時間もぶっ続けで格ゲー、レーシングゲー、育成ゲーを出来るのか。


実際のところ、いるにはいるだろう。

だが……大半の者は、出来ない。

大きな結果というのは直ぐに表れない。


一年、二年……五年と真っ当な努力を重ね続けて、ようやく花開く。

ソウスケがこれから伝える細かい訓練内容などは、接近戦や武器の扱い……魔力、魔法の技術的な面など、差はあれど最終的には強くなる為という目標に向かっている。


努力出来ることは才能?

人によっては、努力が継続できる人間を、それは特別な才能だと評するかもしれない。


だが、ヌレールアはこれまでの自分から、新しい自分に変わろうとしている。

努力は出来る……ただ、本気の努力を長期間続けるのは難しい。

それをソウスケは、忘れてしまった訳ではない。


それでも、ヌレールアが目指す変わった自分の姿を目指す為ならば、変わる努力を続けなければならなかった。


「ヌレールア様……自分たちが伝えられる事は、全て伝えます。ですので、頑張りましょう」


「は、はい!!!!!!」


慰めでもなく、中身のない言葉ではなく……力強く背中を押し、支えてくれる。そんな頑張れというメッセージに、ヌレールアの心は再度燃え上がった。

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