千三十五話 二十日間では

「えっと、自分が同業者のバカを投げ飛ばす姿を見て、自分に指導してほしい頼んだと聞いてますが」


「はい、そうです!!! えっと、僕も先日同じ目的であの場にいたんですけど、あんな簡単に警備の人たちを振り回していた人を圧倒する姿を見て、強烈な衝撃を受けました!!!!!」


(……確かに、見た目は全然強そうじゃないもんな、俺)


ヌレールア的には全く貶してるつもりはない事は解っているので、特にここで不機嫌になることはなく話を続ける。


「どうも。それで……肉体的な強さを、欲しいと」


「そうです!!!! そ、その……今は恥ずかしい体型になっていますが、絶対に絞ってみせます!!!!!」


(指導経験が超多いわけでもないから、偉そうに語れないけど…………でも、こうして自分が変わりたいっていう思いを、大きな声に出して言える人は、多くないだろうな)


ソウスケは、自分が神から貰った最初の十五個のスキルと蛇腹剣がなければ、強者という過去の自分からは想像出来ない存在になれたことを深く理解している。


だからこそ、自分はこれから変わるのだと……大きな声で宣言できるヌレールアに敬意を持った。


「勿論、ヌレールア様の意志は疑っていません。では、そうですの……まず、昼食時までにヌレールア様の現時点の強さなどを教えてもらいましょう」


強さを教えてもらう。

つまり、模擬戦を行うということ。


「は、はい!! よろしくお願いします!!!!」


まずはソウスケと模擬戦を行い、その後は魔力回復のポーションを飲み、約十分の休息を得てミレアナとの模擬戦を開始。


「そこまで」


「はぁ、はぁ、はぁ……はぁ」


「お疲れ様です、ヌレールア様」


「あ、ありがとう、ございます」


当然ならが、ヌレールアはソウスケとミレアナに一撃も居れることが出来ず、模擬戦を終えた。


「それではヌレールア様、まだ昼食まで時間があります。まずは自分とミレアナが感じた印象や長所をお伝えします。その後、共にどういった姿を目指すか考えましょう」


ソウスケは二十日間という短い期間で、ヌレールアを完全に本人が望む理想の姿に変えられるとは思っていなかった。


「わ、分かりました!!」


用意されていたテーブルに移動し、まずは二人がヌレールアと戦った感想を伝える。


「正直なところ、ヌレールア様が肉体的な強さだけを目指す、という道を選ぶのは非常に勿体ないと感じました」


「私も同意見です」


「そ、そうですか」


自分は強い肉体を目指すことはダメなのかという不安と、魔力や魔法に関する……これまで積み重ねてきたことに関して褒められることは、それはそれで嬉しくもあり……どういう顔をしていいのか解らなくなった。


(? 事情があって退学したということを考えれば、そこに自身のなさを感じるのかもしれないな……でも、とりあえず魔力量はこれまで出会って来た同世代の人達の中でも、結構ずば抜けた量だからな)


魔法も使えるソウスケとしては、その魔力を身体強化やスキルの魔力消費だけに回しておくのは、非常に勿体なく感じた。


「肉体は徐々に絞っていくとして、まずは魔力操作や戦闘に関する知識を再度学んでいきましょう」


まずは魔力に関する操作。

その内容を聞き、ほんの少し……ヌレールアの顔に影が差す。


「次は、どう肉体改造に取り組んでいくかについて話しましょう」


「肉体改造、ですか」


「はい、その通りです。無理に体を絞ろうとすれば、体調に悪影響が出る可能性があります。ただ、やはりヌレールア様の体格をそのままにしておくのは勿体ない。体の大きさだけで接近戦の勝敗が決まるわけではありませんが、それでも基本的に体が大きい方が有利なのは変わりありません」


ソウスケはヌレールアがそれなりに身長が高いだけではなく、腕の長さ……ウィングスパンが平均よりも長い事に気付いた。


(腕が長いということは、それだけリーチが長くなる。細かく突き詰めれば不利になる場面もあるんだろうけど、今はまだその課題を言う必要はないだろう)


これから数か月、もしくは年単位をかけて行っていく訓練内容を聞き、ヌレールアの顔には驚きや不安はなく、期待と嬉しさが浮かんでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る